スパコン「京」の本当の意義
「2位じゃダメなんでしょうか?」
このセリフに聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。これは、2009年の民主党への政権交代直後、民主党政権の施策で最も国民の注目を集めた「事業仕分け」において、参院議員の蓮舫さんが放ったひと言です。
事業仕分けとは、自民党政権時代の「予算のムダ」を洗い出す会議で、当時仕分け対象の一つになっていたのが、世界一の性能を目指すスーパーコンピュータ「京」の開発計画でした。
この開発計画は、総額1230億円を費やし、1秒間に1京回の計算ができるスーパーコンピュータを開発するというもので、理化学研究所が中心となり、NEC、日立製作所、富士通が共同開発していましたが、事業仕分けのやり玉にあがってしまったのです。
蓮舫さんに世界一のスーパーコンピュータを開発する意義を繰り返し問いただされた担当者たちは、「世界一を取ることで国民に夢を与える」と説明したのです。それに対して、仕分け人の蓮舫さんが「世界一になる理由は何でしょうか?」と聞いた後、冒頭の「2位じゃダメなんでしょうか?」と発言し、開発計画は「凍結」されることになったのです。
私だったらこう答えた
先にも述べた通り、新商品であったり、まだ誰もが開発していない技術を開発したりすることで、成功すればそこには莫大な利益が生まれます。
世界一のスーパーコンピュータを開発するというのも、そうした意義があったことはおそらく蓮舫さんの頭の中にもあったはずなのです。
では、なぜこのスーパーコンピュータ「京」の開発計画は凍結されてしまったのでしょうか。それは、プレゼン担当者たちのこのひと言に集約されています。「世界一を取ることで国民に夢を与える」後に、蓮舫さんは「世界一のスパコンをつくるというのは、日本の科学技術力の象徴として意義があったのだと思いますが、莫大な予算を使ってつくる理由としては弱すぎる」と語っています。
たしかに、私もその通りだと思います。
ここで重要だったのは、蓮舫さんからスーパーコンピュータを開発する意義を問われたときに、どのように答えればスムーズに開発を進められるのかという仮説を立てることだったのです。
もし私だったら、こう答えました。「世界一のスーパーコンピュータでなければ特許が取れないからです」科学技術の世界において、最初の発見や世界一の開発などには、「まだ世の中に知られていない新たな技術」が必ず存在しています。つまり、それは特許を取ることができる技術ということになります。
この世界一のスーパーコンピュータにも、当然ながら特許が取れる技術があったはずです。これがもし2位であれば特許は取れない。これが科学技術の世界の掟でもあるのです。
もし、世界一のスーパーコンピュータでなければ特許が取れない。ひいては日本の科学技術力を世界に知らしめることも、ビジネスとして展開していくこともできないという明確な答えを用意していたら、きっとこの世界一のスーパーコンピュータの開発計画は仕分け対象にはならなかったのではないでしょうか(幸いなことに、その後、予算は復活しました)。