孤独がもたらす経済的損失は推定34億ドルを超える
近年の統計データも、注目すべき事実を示している。
世界各地の5万5000人を対象にしたオンライン調査によれば、全年齢層の3人に1人が頻繁に孤独を感じている。最も孤独を感じているのは16~24歳で、40%が「頻繁、または非常に頻繁」に孤独を感じている。孤独を感じている人は生産性が低く、離職しやすいため、英国では孤独がもたらす経済的損失が年間25億ポンド(約34億ドル)以上になっていると推定され、これが孤独担当大臣の設置につながった。
日本では、2019年の調査において、成人の32%が「来年はほとんどの時期を孤独に過ごす1年になる」と予想していた。
米国の2018年の研究によれば、成人の4人に3人が中程度から高程度の孤独感を抱いている。新型コロナウイルスのパンデミックは人々の間に大規模な分断をもたらし、多くの人がかつてないほど強い孤独を味わったが、その長期的な影響については本稿の執筆時点でも研究中の段階だ。2020年には、社会的孤立が原因と見られる死者の数が16万2000人と推定されている。
人類に埋め込まれた「孤立=危険」と感じる仕組み
孤独感の蔓延を食い止めるのは難しい。孤独感が生まれる要因は、人によって異なるからだ。また、孤独感は主観的な体験なので、一人暮らしかどうかといった単純な指標では測れない。配偶者やパートナーがいて、友人もたくさんいるのに孤独を感じている人もいれば、一人暮らしをしていて親しい人が数人しかいなくても、深いつながりを感じている人もいる。
客観的な事実を並べても、孤独感の理由は説明できない。人種や階級、性別に関係なく、孤独感は人間関係の理想と現実のギャップの間に存在する。しかし、孤独感が主観的な体験ならば、身体にとってそれほど有害なのはなぜだろうか?
ヒントは、人類の生物学的ルーツにある。人類は集団行動を前提として進化してきた。社会的行動を促す生物学的プロセスは、人を守るためのものであって、害を与えるものではない。孤立していると感じると、身体と脳は孤立状況を生き残るためのしくみを発動させる。
5万年前、単独行動は危険だった。川のほとりの部族の集落を1人で離れると、ホモ・サピエンスの身体と脳は一時的にサバイバルモードになる。1人きりで危険を察知しなければならないため、ストレスホルモンの分泌量が増え、警戒心が高まる。家族や部族と離れて1人で眠るときは、睡眠が浅くなる。肉食動物が近づいてきたら、気配にすばやく気づいて飛び起きなければならないから、夜も覚醒している時間が多かったはずだ。