相手自身と相手の仕事に興味を持つ
その上で、もう一つ必ず伝えるのが、彼ら自身と彼らの仕事に自分が本当に興味を持っていることです。
「お芝居、劇場に観に行きました。よかったですよ」
こう言うと、百人中九十九人、ほぼ全員の顔がパーッと明るくなります。故三浦春馬さんだけは違っていたので、あとから思い出して、なおさら心が痛みました。三浦さんが熱演したミュージカル『キンキーブーツ』について、
「初演も観ましたよ!」
と伝えたのですが、全く乗って来てくれなくて妙だなあと思っていたのです。
お芝居ではなく映画でもいいのですが、「テレビで見かけた」ではなく、わざわざ足を運んだりお金を遣ったこと、彼らの仕事に本当に興味を持っていることを伝えると、心をひらいてくれる度合いが俄然違ってきます。
せっかく忙しい中、時間をつくってくれたんだから、お互いにいい時間を過ごしたい。だからめいっぱい「ファンですよ」ということを伝えるようにしています。ヘンに気取ったり出し惜しみせず、招いた側でもあり年長者の私が胸襟を開くことが礼儀だと思っています。
憧れの人への懐き方
渡辺淳一先生、宮尾登美子先生、田辺聖子先生、瀬戸内寂聴先生……お世話になった先生方が一人また一人と居なくなってしまいました。この事実と正面から向き合うと、さびしくてたまらなくなるので、普段は出来るだけ考えないようにしています。
デビュー時には生意気なキャラクターに見られていた私ですが、名だたる先輩作家の方々から随分かわいがってもらってきました。なぜそんなに目をかけてもらったかというと、我ながら思うに、懐き方が上手いのでしょう。
私の実家は、母が戦後に山梨で始めた「林書房」という小さな本屋です。本屋の娘として育ったので「作家の方々に食べさせてもらった」という思いが刷り込まれています。大好きな有名作家に会うと「わーい、本物だ」と胸がときめき、嬉しくてたまりませんでした。初めて五木寛之先生にお会いした時も大感激しました。
そんな調子ですから、好きな作家を目の前にすると、作家愛が表情からも態度からもどうしようもなく溢れ出てしまうのです。尊敬する人の前で固まったり後ずさりしてしまう人もいますが、私は臆面もなくズカズカと前に出ていくタイプ。
「子どもの頃から大ファンです。あの本は……」
好きな作品の感想を伝えると、作家自身も私の敬愛が本物だということを見抜いてくれます。自分の本をちゃんと読んでくれているか、作家はすぐに察知しますから。