2004年には喜多川氏の性加害が認定されている

筆者はこれまで、運動部活動における部員が不祥事を起こした際に問われる連帯責任について、上述の3条件を参考に論じてきた。部員が突発的に起こした飲酒や喫煙、さらには一般人に対する犯罪行為に対して、大会への部の出場停止や活動の自粛など、連帯責任が課されるケースは枚挙にいとまがない。

筆者は、突発的に生じた部員による不祥事に対しては、たとえ性加害のような凶悪犯罪であっても、関与していない部員に連帯責任を問うことは問題があるとする立場である。なぜなら、部員は当該行為に反対していたとしても、個人的な行動を阻止することは現実的に極めて困難であるためである。

一方で、飲酒や喫煙だけでなく、犯罪を促進させるような風潮が部員間に存在した場合には、連帯責任が課されるべきとする立場である。

喜多川氏の性加害問題についてはどうか。この事件の全容は解明されていないが、突発的に生じたものではないことは明らかである。

ジャニーズ事務所に所属していたタレントらは、たびたび喜多川氏による性加害の事実を告発してきた。1999~2004年には、『週刊文春』の記事を巡ってジャニーズ事務所が訴訟を起こしたが、東京高裁により喜多川氏による性加害の真実性が認定され、一部敗訴している。

喜多川氏による性加害が長年見過ごされてきたことにより、被害者の数は1000人を超える可能性も出ている。被害者は被害を受けたことに対する責任は全くないが、被害者であったとしても、犯罪行為に加担、もしくは犯罪行為を助長していた場合には責任を伴う。また、自身の地位や立場を失いたくないために犯罪行為を黙認した者も、責任を逃れることはできない。

喜多川氏を美化し続けたタレントも加担したと言える

仮に筆者が、性加害を長年にわたって続けている教員の主宰する研究室への進学を志望する学生から相談を受け、性加害の実態を知りながら当該教員の人格を称賛し、研究室への進学を勧めたとすれば、大きな責任問題となる。筆者がその教員から多くの便益を受けていれば、さらに厳しい責任が問われるであろう。

これらを踏まえると、喜多川氏による性加害の実態を知っていながら喜多川氏の人格を称賛し、その人物像を美化していたとすれば、たとえ被害者であったとしても、連帯責任がないとは言えまい。そのような言動によって喜多川氏からの寵愛ちょうあいを受け、芸能界における有形無形のバックアップを得ていたとすればなおさらである。

テレビを通して喜多川氏を美化していくことは、性加害を受けて心に傷を負い、ジャニーズ事務所を退所した人たちに対する暴力性も孕んでいる。メディアを通して「ジャニーズ事務所は良い事務所」という誤った認識を広め、それをうのみにして芸能界デビューを目指す少年たちが毒牙にかかるようなことがあったとすれば、タレントたちも性加害の被害者を増やす行為に加担したと取られても仕方ない。

オカモト氏は、「性加害の実態を知っていればジャニーズ事務所に入らなかった」と述懐している。

もちろん、喜多川氏の人格をテレビで称賛しないという選択を取ることで、命に危険が及ぶような深刻なリスクを生む構造があったとすれば話は異なってくる。

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