ジョブズの頭の中
仮説というと、皆さんはどうしても「未来を先読みする」「事前に予測を立てる」という観点から発想するものとお考えではないでしょうか。ですが、仮説とは必ずしもそうではなく、「世界がこの先こうなるから、こう変えられる」という立て方もあるのです。
ジョブズは当時のインフラ状況や最先端のテクノロジーなどを細かくリサーチしながら、「近い将来、携帯電話が情報にアクセスするための重要なデバイスになる」という仮説を立てたのです。これこそが、「未来を創造するための仮説」なのです。
ジョブズのように、世の中の状況を観察しながら現状を分析して、自分たちの持っている知識や技術を駆使しながら、「5年後、10年後にはこんなことができる」「だから社会をこんなふうに変えられる」と考える、こうした仮説の立て方もあるということを皆さんにお伝えしたかったのです。
ジョブズは決して何かしらの未来を予見したわけではなく、彼の頭の中にある仮説、それをこのリアルな世界という制限の中でストーリーとして落とし込んでいき、実現していきました。
未来を創造するための仮説とは、未来がどうなるかという受け身ではなく、「未来をこう変えることができる」という攻めの仮説だということです。これが、アップルを筆頭とした「GAFA」が世界的な企業にまで成長した要因でもあるのです。
なぜ日本で「GAFA」のような企業が生まれないのか
未来を創造するための仮説について、もう少しだけ触れておきましょう。なぜ、日本では「GAFA」のような世界的なIT企業が生まれないのか。これは長らく議論されているトピックです。
そこにはさまざまな理由があるとは思いますが、私は多くの日本企業は「未来を創造するための仮説」ではなく、「未来を予測するための仮説」を立ててしまっているからだと推察しています。
では、なぜ未来を予測するための仮説ではいけないのか――。それは、未来など誰にも予測できないからです。私たちは未来を予見できるわけでも、予言者でもありません。つまり、未来を予測するというのは「非科学的」だということになるわけです。
皆さんは驚かれるかもしれませんが、実は科学の世界にはある統計があって、「科学技術の未来予測は8割外れる」のです。科学技術の世界では、仮説をもとにさまざまな実験や検証がなされているわけですが、それでも8割は間違った仮説を立てているということです。
「未来はこうなるだろう」と予測をするために仮説を立てるのではなく、「未来をこう変えていくためにはどうすればいいのか」という意思のもと、そのためにはいま自分たちにどういう武器や道具が揃っているのか、クライアントや消費者のマインドはどうなのかということを深く考えて、次の1歩を踏み出す、あるいは次の1手を打っていくための仮説を立てるということが、仮説脳の本質なのです。