どのランクの店でも感想は「おいしかった」になってしまう
「すごくおいしかったです」。
試食会の後、多くのカップルが満足そうにこうおっしゃいます。しかし、以前と違うのは、Bランクの施設でも判を押したように「おいしい」という感想しか聞けなくなったことです。かつては「ナイフがいらないくらい、お肉がやわらかくて感動しました」「こんな味のソースがあるなんて知らなかったです」というように、具体的な感想を聞くことができました。これも食の経験値が低くなり、比較することができなくなっているからでしょう。
食は文化です。和食はもちろん、フレンチなどでも発揮される高い料理技術は世界に誇る日本の大切な文化のひとつです。今までは、結婚式がその上質な料理文化を経験する貴重な機会でしたが、それが危うくなっています。
このような状況を踏まえ、ウエディングはもちろん飲食業界でも「価値を伝える能力を高めること」が急務であると考えています。これまで料理の説明をする際は、素材の生産地やいかに手間をかけて作られているかを伝えたり、シェフの経歴を紹介したりするのが一般的でした。そこには「食べてもらえば分かる」という作り手の思い込みがあったと思います。
「食べれば分かる」では通用しない
しかし、これからは「クリームの材料となるじゃがいもの皮むきから丁寧に行うことで、舌にのった時のなめらかさが違います」というように、味わいの違いがどこから生まれるのか、根拠となる情報を伝えることで、おいしさを実感してもらいやすくする必要があるでしょう。
そのためには今まで以上に提供する側のプレゼンスキルが問われます。すでにメニューが新しくなるたびに、全品をスタッフが試食して、自社の価値を実感させる取り組みをしているホテルもあります。
そして、コース料理を食べたことがない方が増えている一方で、今、日本のフレンチのレベルは非常に高く、「ジャパニーズフレンチ」という新たなジャンルになっています。パリをはじめ、海外でも日本人シェフが絶大な評価を受けているのです。しかし、このままでは同じ日本人でありながら、ほとんどの人がその感動を享受できないままでしょう。
披露宴はおいしい料理でお二人の門出を祝う場です。今後は多くの人が初めてフレンチに出会う場でもあると捉え、ウエディング業界が新たな経験の場としての役割を担っていきたいと考えています。