「ウチの親はつき合いはじめのカップルみたい」

【尾崎】小説に出てくる父親のように、子供の受験を完全に管理しようとするタイプのお父さんはいますよね。取材等で見聞きした事例をミックスし、あのキャラクターを作り上げていきました。ちなみにわが家の夫は受験にまったくノータッチ。本人がやりたければ好きにしたらいいよというおおらかなスタンスでした。長男が勉強に集中できるよう、土日に次男を連れ出してもらうなど、お互いの役割分担をしていました。

【ぎん太】両親ともに受験に前のめりだと、子供の逃げ場がなくなりそうですよね。

撮影=岡村智明

【尾崎】実は一度、私が外出するときに「これは絶対にやらせておいて」と夫に頼んだことがあるんです。そうしたら張り切りすぎてしまったみたいで「お母さんに言われたところ、ちゃんとやれよ! そもそもお前は生活態度が……」なんてやっちゃって。長男にしてみれば、普段ノータッチの父親にいきなりあれこれ言われたらカチンときますよね。「何も知らないのに、何言ってんの?」とけんかになってしまい、頼むんじゃなかったと後悔しました(笑)。

【ぎん太】小説を読んでいていちばん感じたのは、やっぱり両親の仲がよくないとダメだということでした。僕の両親は、つき合いはじめのカップルみたいに仲がいい。もう、かんべんしてほしいくらい(笑)。でも時々、しょうもないことでけんかをするんですね。それを弟たちがすごく嫌がって。めちゃくちゃストレスに感じていることが伝わってくるんです。子供にとっては、家族みんなが仲よくのびのびと暮らせることがいちばんですよ。

【尾崎】ああ……、うちは親子げんかが絶えず(笑)。受験生に言ってはいけない言葉のワースト10を、みんな言ってしまったほどなので。「本当にやったの? やってこれ?」とか言ったこともあります。長男には、「お母さんは、できてないことじゃなく、やったことをもっと評価するべきだ」と言い返されたこともありました。

【ぎん太】子供が言われたくないのは、誰かと比べられることですよね。僕は空手を習っているんですが、武道の世界では自分と向き合うことの大切さを説かれます。弓道で国体に出た人に聞いたのですが、「これが当たれば優勝できる」といった邪心がよぎると必ず的を外すそうです。勉強も一緒で、つい「○○には負けたくない」「○○より偏差値を上げたい」といったことを考えてしまいます。目の前の問題に向き合い、それを解くことが本質なのに、見失ってしまうんです。

【尾崎】誰かと比較するのではなく自分自身と向き合うことが大切。本当にその通りだと思います。一流のアスリートも、そうですもんね。

【ぎん太】中学受験もスポーツも同じですよね。偏差値を目標にする前に、まずは自分自身の知識を深め、解ける問題を増やすことが、親から子供に伝えるべき本質だと思います。