昨年9月の「ハルキウ(ハリコフ)の戦い」がまさにそうだった。ウクライナ側は事前に砲撃で圧力を加え、突撃の準備をしていた。それにはロシア側も気付いていた。しかし意表を突いた攻撃で戦術的サプライズを与え、数的な優位も見せつけると、ロシア側はパニックに陥り、指揮命令系統が麻痺してしまった。

こうなると、ロシア側は後方に待機している部隊を迅速に前線へ送り込むこともできない。結果、ウクライナ側は約6000平方キロ以上の土地を、わずか10日で取り戻せた。決め手は最初の24時間だった。先手を取って前線を突破したからこそ、ロシア側は混乱し、パニックに陥った。来るべき春の反転攻勢でも、ウクライナ側は「ハルキウの戦い」の再現を目指しているはずだ。

とにかく緒戦で戦術的サプライズを勝ち取ること。これが死活的に重要だ。これができれば、少なくとも短期的には、戦場での火力や兵員数で優位に立てる。

反転攻勢の準備を、ウクライナ側が隠す必要はない。偵察衛星の画像があり、安価な無人機が戦場を飛び回っている今の時代に、軍隊の集積を隠せるわけがない。大事なのは反転攻勢の時期と地点を隠し通し、ロシア側の兵力を分散させることだ。

また突破口の選定に当たっては、そこから速やかに戦線を広げて敵陣深く入り込めるよう、主要道路や交差点、鉄道の分岐点などを確保する方法まで準備しておきたい。

もちろん、最初に必要なのはロシアの重層的な防御網を突破することだ。ウクライナ軍の情報分析官が筆者に語ったところでは、同国南部を支配するロシア軍は地雷を敷き詰め、「竜の歯」と呼ばれるピラミッド形のコンクリートブロックや、戦車の進撃を阻む溝や壕、塹壕などを至る所に配置している。またハルキウやへルソンでの敗北に学び、今は前線を縮小し、兵員の集積度を高めている。

これだけの防御網を一撃で破壊できるほどの火力を、ウクライナ側が用意するのは不可能に近い。ロシア軍の陣地を素早く制圧するに足る兵力を投入することも難しい。

激しい砲火を浴びながら敵の重層的な防御網を破壊し、進撃するのは至難の業だ。戦車や装甲車両が前進できるように地雷を除去し、「竜の歯」や落とし穴を破壊するには、いずれも専門的な機材と高度な技術が必要になる。

だから成功への近道は、ロシアの守備隊が自らの陣地を放棄して逃げ出すように仕向けること。自分たちが孤立し、包囲されるという恐怖を抱かせ、ロシア兵にパニックを起こさせることだ。