10の需要創出シナリオ

それでは、具体的にどのような新たな需要を生み出すことができるのでしょうか。

デロイト トーマツ グループの新著『価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略』(日経BP社)では、「環境・エネルギー」「モノづくり」「ヘルスケア」「観光」「地域創生」の5つの領域において、日本の強みを生かした「10の需要創出シナリオ」を提唱しています。

例えば、ヘルスケア領域のシナリオの一つは、日本の“長寿”という強みに着目し、「“長寿”イノベーション・ハブ」を日本に作るというものです。具体的には、高齢者のヘルスケア関連データを軸として、日本に長寿研究の拠点をつくり、海外から日本にヒトやデータ、カネを呼び込み、グローバル規模で循環させていきます。

他にも観光領域では、「循環ツーリズム」を提唱しています。

例えば、これまで観光の対象と見なされていなかった遊休資産や自然資源(リアル空間)、地域の伝統文化(時間の蓄積)に着目し、従来の観光の枠組みにとらわれない新たな体験型のツーリズムの機会を開拓し、ヒトやデータ、カネの循環を生んでいきます。

また、インバウンド観光客に対しては、日本滞在中だけでなく帰国後まで接点を持ち続けて越境ECを通したモノの循環やリピート需要を生み出していく「インバウンドのアウトバウンド化」という発想も重要です。

『価値循環が日本を動かす』においては、企業や自治体、省庁等がそれぞれの立場で「人口減少下における成長シナリオ」を描き出すための実務的なアプローチを示しています。

そのツールが、「価値循環マトリクス」です。これは縦軸と横軸が、“4つのリソース”の循環、“4つの機会”となっていて、どのような需要を生み出すことができるか? を考えるためのフレームワークです。

こうした「価値循環」のフレームワークを活用することで、人口減少下にあっても成長戦略を導き出すことが可能になるのです。

失われた30年を語るのはもう終わり

今世紀後半には、日本同様に世界中の多くの国が人口減少社会に突入します。

人口減少におびえ、自ら将来不安を増幅させておきながら、それを「失われた30年」という言葉で、まるで災厄のように語るのはもうそろそろ終わりにしましょう。

22世紀までの将来に目を向け、過去の30年を未来に向けた「始まりの30年」にするかどうかは、私たちの意思と行動にかかっています。

世界に先駆けて人口減少に直面する日本は、今こそフロントランナーとして「22世紀型成長モデル」に挑戦するべき時なのです。

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