「無理なものは無理」とわからせるべき

「いやそれは犯罪だからやっちゃだめだよ、やめなよ」

私がたしなめると、オダカはさらにしゅんとなっていました。私は何だかいたたまれない気持ちになってきました。

「オダカくん、お腹減ってるの?」
「はい」
「飯、食いに行く?」
「はい!」

というわけで、最後は2人で飯を食って、この騒動は幕引きとなりました。

ちょっとオモシロ話になってしまいましたが、実はこの騒動にも、謝るときに守るべきポイントが詰まっています。

クレームが入ったり、怒られたりしたときは、とりあえず謝っておくという人も多いと思います。繰り返しになりますが、相手が気分を害していることは事実なので、最初にクッション言葉的に謝るのはアリです。ただ、相手を「いい気分」にさせるために謝るわけではありません。気分を害さないことばかりに気を取られると、相手の術中に自らはまってしまいます。

先ほどのオダカの件で言うと、オダカに「落とした紙を拾わせる」のは絶対に譲れないポイントでした。なぜかというと、「いくら怒っても無理なものは無理」であることをわからせるためです。

感情的な被害にお金を払ってはいけない

謝っているときは心理的に劣勢に立たされるため、つい相手の理不尽な要求や行いを受け入れてしまいがちです。たとえば机を叩いたり、書類をばらまいたり、椅子を蹴飛ばしたりと、脅迫してくる相手ほどそうした“演出”を入れてきます。雰囲気に飲まれてこうした横暴を受け入れてしまうと、相手からは「こいつは押せば要求を飲むな」と思われてしまうわけです。

そのためこちらに非がある場合でも、問題に直接関係ないことで責められたときは、ひとつひとつ訂正したり注意したりすることが大切です。「書類を片付けてください」「椅子を蹴らないでください」と当たり前のことを冷静に伝えるだけで、「こいつに無理は通らないな」と思わせることができます。

それからもう1つのポイントは、「傷つけられた」という訴えには金を払ってはいけないということです。

草下シンヤ『怒られの作法』(筑摩書房)

感情と利害の座標軸で言うと、相手はこちらの感情に訴えることで利益を得ようとしてきます。これは被害者の立場を装って加害行為をしてくる、ある種の“弱者マウンティング”です。罪悪感がある分、無碍むげには断りにくいところがたちが悪い。

しかし相手がどれだけ傷ついたのかという「程度」は、立証の仕様がありません。10万円払えば納得する場合もあれば、1000万円でも足りないことだってあり得る。客観的には判断できないため、結局は相手の言い値になってしまいます。

従って、定性的、感情的な被害に対しては、金銭で解決を図るのは適切ではありません。それで相手が不服に思う場合は、それこそ司法の場で第三者に判断してもらえばいいのです。

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