適正な対価によって良好な関係を築ける場合も

正直、これは微妙だなと思いました。ほかの写真はよくて、この写真がだめな理由が判然としなかったためです。ただ、このときはサカモトさんとよく話したうえで、モデル料をお支払いすることにしました。

こちらが「写真撮ってもいいって言いましたよね」と主張すれば、突っぱねることもできたでしょう。ただ一方で、掲載許可を取っていなかったのは本当のことですし、サカモトさんも不当に金を巻き上げてやろうという意図があったわけではありません。何より、サカモトさんの協力があったからこそ、この本ができたのは間違いないのです。

その後、サカモトさんは丸山ゴンザレスとやっているユーチューブ番組の取材にも協力してくれています。また、モデル料をお支払いするときに念書を書いてもらったことで、『ルポ西成』を文庫化するときも問題なく写真を使うことができました。適正な対価や賠償金は、良好な人間関係を続けていくうえで、時に必要になることも確かです。

議論するビジネスマン
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです

謝罪と並行して事実確認を進めていく

問題なのは、相手から脅迫されたときです。

たとえば私の場合、記事や本を読んだ裏社会の人間から、「お前のせいで決まっていた仕事が飛んだじゃねぇか」とか「記事が出たことで組織にいられなくなった、どうしてくれんだ」といったクレームの電話を受けることが少なくありません。

こうした脅迫めいたクレームを受けたときは、基本的にわからないことには応じないことです。その時点では相手が一方的に言っているだけで裏が取れない。「1000万の仕事が飛んだ」と言われても、額を盛っているかもしれないし、そもそもそんな仕事自体ないかもしれない。従って、その場で相手の要求に安易に応じてはいけません。

私なら、ひとまず相手をクールダウンさせるために「迷惑をかけてしまったのなら申し訳ないです」と謝ります。ただ、これはあくまで相手の感情を鎮めるためです。そこから「失礼ですが、あなたが訴えていることが本当かどうか確かめさせてください」とひとつひとつ事実確認をしていきます。

相手は「てめえ、俺のこと疑ってんのか」と詰めてきますが、「そうではなく、本当に実害を与えてしまったのなら謝罪したい。でも現時点では証拠がないので対応の仕様がないんです。だから客観的な証拠を示してもらえませんか」とお願いを繰り返します(ほとんどの場合そんな証拠はありませんが……)。