非常階段を駆け上がり名前を叫んだ20代男性
当時、会社は雑居ビルの3階にあり、来るのであればエレベーターに乗ってくるはずです。一体どんなやつがくるのだろう。私は半ばワクワクしながら、エレベーターの前で男を待っていました。
すると背後から急に「ドンドンドンドンッ!」とドアを叩く音が聞こえました。オダカはなぜか非常階段を駆け上がってきたのです。「何で⁉」と思いましたが、危険を避けるため急いで社員をエレベーターのほうに避難させて、私は非常階段のドアを開けました。
目の前には、20代後半ぐらいの金髪をしたチンピラ風の男が立っていました。男は入ってくるなり、いきなり叫びました。
「オダカが来たぞーー‼」
その時点で「何で名前を叫ぶの?」と私は面白くなってしまったのですが、オダカは真剣です。言いたいことがあってせっかく来てもらったのだから、話ぐらいは聞かないと失礼だと思い直し、「どうぞこちらに」と迎え入れました。
当時、非常階段は全く使われておらず、消防法的にあまりよくないことですが、ドアの脇には仮眠用のベッドや大量の用紙が積まれていました。そのため通路の幅がとても狭かったのですが、オダカは気にせずオラオラ歩くので、肘がベッドの上に積んでいた用紙に当たり崩れ落ちてしまいました。
常習的に出版社を恐喝していたクレーマーだった
するとオダカは「何でこんなところに紙を置いてんだよッ‼」といきなりキレてきました。
「いやいや、おかしいでしょ。あなたが落としたんだから拾ってくださいよ」
私は冷静にオダカをたしなめました。
「ちゃんと紙を戻したら話をしましょう」
そう言うと、オダカは「なにっ⁉」と威圧しながらも紙を拾って戻していました。それからオダカを応接室に通して向かい合って話したのですが、席についた時点でしゅんと小さくなっているのがわかりました。一応「どこが問題だと思いましたか?」と話は聞いたのですが、オダカに電話のような勢いはありません。
そこで「こちらには表現の自由もあるし、決してキャバ嬢を馬鹿にしているわけではないんです。ユーモアで書いているだけなので、あなたに責められる筋合いもないと思います」ということを丁寧に伝えました。
するとオダカは「そうですね」とあっさり引き下がりました。そして「草下さんを見た瞬間、こりゃ無理だなってわかりました」と白旗を上げたのです。
よくよく話を聞いてみると、オダカは本に書かれている内容にクレームをつけて色んな出版社を恐喝していたようです。驚くべきことに、実際に金を出した出版社もあったのだとか。オダカは高校卒業後、美容師になりたくてニューヨークにあるヴィダルサスーンの美容室に行ったはいいものの、結局雇ってもらえず、帰国した後は無職で金に困っていたそうです。それで出版社にクレームを入れたらたまたま金が手に入った。それ以来、こうした脅迫行為を繰り返しているということでした。