男性育休取得率は一桁台から脱したが…

また、政府の後押しもあり、男性の育休取得率は近年大幅に上昇している。2021年度の男性育休取得率は13.97%。もちろんこれは理想からはほど遠い数字であるが、育休取得率が数十年以上にわたり一桁台の前半で推移していたことを考えれば、これは良い兆しではあるはずだ。

厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」より

けれども、男性の育休取得率はひとつの目安であり、最終的な目標ではない。何らかの形で育児に携わる男性が(いまだ不十分ではあるが)増えてきていることは歓迎すべきだ。けれども、育休という制度だけが独り歩きすることを防ぐためには、女性の視点からのフィードバックが不可欠である。

そのような問題意識のもとで、私は育児に携わっている(あるいは興味を持っている)男性だけでなく、女性にも読んでいただくことを想定して本書を執筆した。その試みが成功しているかどうかは読者の判断を仰ぐよりほかないが、「イクメン」に関する研究が女性の視点からも厳しく評価されることを、私は望んでいる。

日本の保育施設の民営化が進んだワケ

本書で力を入れて検討してきたもうひとつの論点は、男性の育児の背後に見え隠れする新自由主義的な価値観である。新自由主義とは1970年代以降の世界を席巻してきたイデオロギーであり、日本にも大きな影響を与えてきた。新自由主義的な世界においては、すべての個人が経済的なものさしによって測られることになる。

アメリカと日本の保育制度を概観した第二章と第三章では、新自由主義的な政策の導入により、育児が市場原理に委ねられる傾向が加速したことを論じている。子育てはほとんど自己責任で、保育が「売り物」となったアメリカと同様、日本でも育児に対する公的な支援が徐々に削減され、保育に対する規制緩和と民営化が進んだ。

さらに、父親の育児参加が少子化という経済問題を解決するための手段として位置づけられ、推奨されてきた。母親からも社会からも孤立して「ワンオペ」で子育てをする父親たちが、『クレイマー、クレイマー』をはじめとするハリウッド映画において美化されることは、そのような背景から理解することができる。