子どもをケアする大人のネットワーク

育児はひとりでは完結しない。私の場合、自分の子どもたちがすくすくと成長しているのはまず妻の献身的な努力によるところが大きいし、子どもたちの祖父母にも折に触れて助けられている。保育園・小学校・学童保育などで働く方々は、もしかしたら私たち夫婦よりも多くの時間を子どもと共有しているかもしれない。多かれ少なかれ、子どもはこのような諸々のネットワークのなかで育まれるものであろう。

ところが「イクメン」という言葉を使うとき、そのようなケアのネットワークは後景に退き、父親と子どもという限定された関係性のみが切り取られてしまう。要するに、「イクメン」という言葉の背後には、「父親が育児に参加すれば問題は解決する」という単純化された思想が見え隠れしていないだろうか?

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「イクメン」という言葉に隠された問題

私は「男性は育児をしなくてよい」と主張しているわけではない。そうではなくて、「男性が育児をするだけでは不十分である」というのが本書の提起する論点のひとつである。

母親に比べて父親が育児を担う割合が大幅に少ないという日本の現状に鑑みれば、「イクメン」という言葉にはある種の存在意義があったかもしれない。けれども、いつまでもその言葉に固執していると、見えなくなるものがあるのではないだろうか?

「イクメン」という言葉だけが独り歩きしないような状況を作るために必要なのは、そこに女性の視点を組み入れることである。「とるだけ育休」という言葉が最近注目されているが、男性が育休を取得しても家事や育児の戦力にならないというのでは本末転倒である。

近年の日本においては、子育て中の男性を支援する体制がかつてないほどに整備されてきている。2022年には改正育児・介護休業法が施行され、出生後8週間以内に4週間までの休業を従来の育休制度に加えて取得することが可能な「産後パパ育休」(出生時育児休業)制度が導入された。