教師と親の「熱」が子供のモチベーションを高める

【藻谷】なるほど。私も講演のたびに、熱意を持って何とか事実を皆さんに伝えようと頑張っているのですが、確かに講演回数が月に50回を超えていたような時期には、何か湧き上がってくるものが足りなくて、ただでさえ伝わりにくい話がなおさら伝わらなかった感じがありますね。

それが20回ぐらいまで落ちてくると相当に熱意が復活してきます。……というのはちょっと私が特殊に病的に伝えたがりなのかもしれません(笑)。でも実にいろんなテーマで話していることが、確かにやる気のもとになっています。

つまり、カリキュラムの内容よりも、カリキュラムが新鮮なことで先生が熱心になるのが大事。そこが子供の本質的な何かに触れるわけですね。

【養老】そうだと思います。私の経験では、東日本大震災のあと東松島の小学校でも似たようなことがありました。亡くなった作家で冒険家のC.W.ニコルの「アファンの森財団」が援助してその小学校の裏山を校庭にし、校舎は全て木造で作り直しました。

そこで学んだ卒業生の話を聞いたり、ほかの調査をしていると、例えば「将来、人の役に立つ仕事につきたい」といったモチベーションが高い子供が多いことが分かりました。

今の教育は惰性の極みである

【養老】それは、大人たちが自分たちのために特別に新しい木造の学校を造ってくれたことに反応しているのではないかと思います。つまり、特殊な学校であることが大事なのではなく、特殊な学校を造ったということが大事なのだと思います。

養老孟司、藻谷浩介『日本の進む道 成長とは何だったのか』(毎日新聞出版)

【藻谷】前からあることではなく、新しく始めたことに、初期に学んだ子供たちが感心する。残念ながら普通の場合、いまの教育は惰性の極みのようになっています。

【養老】そうだと思います。いまは教育そのものではなく、制度の維持に専心している感じです。だから、先生が夏休みでも休まずに学校に行くというバカな話になる。子供がいないのになぜ学校に行くのかという疑問を誰も呈さない。

【藻谷】生徒が休みだからと言って先生が休んでいるのはずるい、といわれるから出勤することにしようとかだとすると、正に教育そのものではなく制度の維持が主眼になっていますね。

【養老】そう、税金泥棒と言われるから登校しているとかね。僕が入った中学校はできて4年目でしたから、学校の敷地の整備に子供たちが取り組みました。教育にはそういうことが大事なのではないかと思いますね。

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