子育てにはどんな落とし穴があるのか。『高学歴親という病』(講談社+α新書)の著者で、文教大学教授の成田奈緒子さんは「自分の夢を子供にたくす『リベンジ型子育て』には注意したほうがいい。私が相談を受けた事例では、司法試験をあきらめた息子を家から追い出してしまった母親がいた」という――。(第2回/全3回)
両手で顔を覆う女性
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「親の学歴を教えちゃダメだよ」

――前回の記事では、高学歴親の高いプライドが子どもを追い詰める、という話が印象的でした。

【成田奈緒子】親の出身校を子どもに言わせないという親御さんもいます。その親御さんは両親ともに東大出身なのですが、お子さんに「もしも私たちが東大出身だと周りの友達に言ったら、あなたはお友達に妬まれていじめられるからね」と言ったそうです。

しかし、そのためにお子さんはほかのことも友達に隠すようになりました。その結果、友人関係は破綻し、学校にも行けなくなり、さまざまな症状に苦しみました。

司法試験をあきらめた息子を追い出す母親

――高学歴親という病』には、司法試験をあきらめた息子を家から追い出した、という衝撃的なエピソードもありました。

【成田】両親ともに東大法学部卒で、父は現役の弁護士というご家庭のお話ですね。息子さんは小学生の頃から夜中まで自主的に勉強して、高校のときは留学して英語力も伸ばしました。東大法学部を目指したものの、試験の点数が少しだけ足りず、他大学へ行きましたが、在学中の司法試験合格を目指して、予備校でも猛勉強を始めます。

でも、大学3年生の夏になったとき、息子さんは周囲との連絡を一切絶ち、司法試験を受験しなかったんです。母親は弁護士にならなかった息子を受け入れられなかったようで、家から追い出してしまいました。

――親御さんと息子さんはもともと不仲だったのですか。

【成田】母親は息子さんを溺愛していましたし、息子さんも高校まで母親に朝晩送り迎えしてもらって友人とも遊ぶことがない、まさに共依存の関係でした。母親自身は弁護士ではなかったので、息子を弁護士にしたかったのでしょう。だからこそ、子どもが「自分は親の所有物で、親の希望を反映させる身代わりだ」と気づいたときに、それまでの感謝が落胆や憎悪に変わったのではないかと思います。

このように、子育てを、自分の人生に対するリベンジのようにとらえている「リベンジ型子育て」をする親御さんは珍しくありません。