子供がすくすく育つ学校の共通点

【養老】先生が子供のやることに口を出さないから、子供たちの学びへのモチベーションが高まっていくわけです。フリースクール的な学校で学んだ子が伸びると言われますが、当然です。そこには自分で考えることを教えているからです。

【藻谷】いまの文部科学省の教育指導要領でも、それが可能なのですか。締めつけが壊れてきているので、そういう公立学校も認められるようになってきたということなのでしょうか。

【養老】いや、壊れてきているというよりも、本来、学校指導要領はがちがちではなく、いまの決まりの中でもフリースクールに近いような教育もできるようになっています。つまり、先生方が考え方を変えれば公立学校がそちらの方向に動けるんです。文科省は公立学校でそうした教育が行われることを妨害しているわけではありません。

【藻谷】制度としてはできるはずなのに、子供にとっても先生にとっても苦しい教育になっています。

【養老】教師や親、みんながもう少し素直に本音で話さないといけないのでしょうね。現場の先生方が、「書類を書くために教師になったんじゃない、子供を育てたくて教師になったんだ」とか言い出せばいいのじゃないでしょうか。

教育の方法を変えれば子供は伸びる

【藻谷】さはさりとて、戦前の教育と戦後の教育は大きく変わったと言われています。先生がご覧になって一番変わったのはどこだと思われますか。

【養老】一番変わったのは教育の価値観――教育というものの重みではないでしょうか。戦前の教育はいまより遥かに重たかったし、戦前の方が集団的でした。全体を重視する教育をしていましたが、いまは個人重視の教育になりました。

【藻谷】社会全体で構成員全員の教育のレベルを上げよう、という意識が高かったということですか。

【養老】そうですね。現代はそうした意識が希薄で、それぞれの人や家庭の事情によって全体よりも個人の能力を伸ばすように変わってきていると思います。

さきほど言ったように、個性主義が教育全体の価値を下げてしまったから。教育はやる側が一生懸命になっていることが子供に伝わる。そのことは明らかなので、学校も出来たばかりだといい生徒が出るんです、先生が熱心だから。教師のその「熱」に子供は影響を受ける。そういうことが忘れられている。

私も大学の解剖の実習を教えていたけれど、解剖の実習は非常に手間がかかる大変な授業です。2カ月くらいつきっきりで指導するわけだから。そのやり方は元があってだいたい決まっているのですが、あるときに、それを変えようという話になった。

やり方を変えると変えた年は、学生に必ず良い結果が出ます。それは、変えようと言った人は自分の責任だと思って一生懸命にやるからです。でも何年かすると惰性になって普通になってしまうと、学生もまたもとに戻ります。