中学・高校時代は仲間とコミュ力を高め合って

課題を解決していくうえでもう一つ大事なものが「チーム力」です。人が一人でできることには限界があります。でも、チーム全体が一つの方向を向くことができれば、ベクトルの原理と一緒でものすごく大きな力になる。

かつてネアンデルタール人と我々ホモ・サピエンスは同じ時代に共存していました。ネアンデルタール人は現生人類よりも脳が大きく、体も頑丈でしたが、結局絶滅し、現生人類が生き残りました。

なぜだと思いますか。

『プレジデントFamily2023年春号』(プレジデント社)

現生人類には言葉があり、仲間と分業、協業しながらチームで狩りをしたり戦うことができたりしたのに対して、ネアンデルタール人は言語を持たなかったからだといわれています。

これは現代社会においてもまったく同じで、会社経営でもチームスポーツでも、コミュニケーション能力は本当に大事です。すごく優秀だけど他人とうまくやれない独善主義なワンマン経営者よりも、凡人であってもチームを上手に動かせる経営者のほうが成功します。

みなさんは開成の生徒であり、エリートでもあるわけですが、それだけでなく優秀な仲間たちと一緒に学べる素晴らしい環境にいる、ということを忘れないでください。

僕も開成時代の仲間とは、いまもしょっちゅう会っています。でも実は、在学中は仲間とそこまでの信頼関係は築けませんでした。

僕には仲の良かった兄がいたのですが、僕が小学校5年生のときに病気で亡くなったんです。その寂しさもあって、開成に通っていたときは、どこか心の底から信頼できないというか、どうせ自分のことなんか理解してもらえないだろうという気持ちを持っていたんですね。

ところがあるときに友達と話していて、「ああ、こいつは僕以上に僕を理解してくれているんだ」と実感できた瞬間があったんです。

僕は兄が死んだことすら打ち明けられなかったのに、友達は僕を理解し、信じてくれていた。兄はいなくなったけど、僕には家族同然に信じられる友達がいたんだと気づけたのです。このことは僕にとっては大事件でした。

中学・高校時代というのは、利害とか損得ではなく、人と人との関係性を学んだり、ネットワークをつくったりできる貴重な時期だと思います。信頼できる仲間をつくるというのは、もちろん簡単なことではありませんが、みなさんにもぜひ、そんな素晴らしい仲間をつくってもらいたいと思います。

さて、最近ではAI(人工知能)の技術がすごい勢いで進化して、「ChatGPT」のように人と会話できるAIも誕生してきています。「◯◯って何?」と質問すれば、答えをAIが瞬時に出してくれます。この「ChatGPT」に英語で弁護士試験を受けさせると、ほぼ合格するレベルなのだそうで、正しい答えだけが必要ならば、もはや人間はいらないということになりつつある。

つまり、これからの人間にとって大事なことは、正しい答えを覚えることではなくて、新しい課題を見つけて、それについて考えて考えて考え抜くことなんです。自分で考えて答えを導き出せるようにしておけば、条件が変わっても応用できるんです。

みなさんはまだ若いから、人生はまだまだ続くと思っていると思います。

でも、人生は有限です。その限られた時間の中で、どれだけ好奇心を持ち、頭を回転させ続けるか。そして、同じように高回転で走り続けている仲間たちと力を合わせ、みんなで世界の課題を解決できるか。

これがみなさんにとっての「未来を創る力」だと、僕は信じています。

(構成=田中義厚 撮影=岡村智明)
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