先端企業に積極投資していたクレディ・スイス

そうした企業は一時、超低金利環境を活用して資金調達を行い、高い成長を遂げた。成長期待の高まりに支えられ、米国のIT先端企業の組み入れが多いナスダック総合指数も大きく上昇した。カネ余りと高い成長への期待は連鎖反応的に高まり、“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理に拍車がかかった。

米国や欧州では、成長期待の高い先端分野の企業との取引を強化したり、関連する株式の取引業務などを強化する金融機関が急増したりした。その一つが、スイスのクレディ・スイスだ。

同行の出自は、富裕層向けを中心とする商業銀行ビジネスにある。しかし1980年代以降、同行はより高い成長を目指し投資銀行ビジネスに参入した。リーマンショック後は超低金利環境をよりどころに米欧などで投資銀行事業を強化し、IT関連株の発行、IT先端分野などに投資するファンド向けの与信ビジネスなどを強化した。

アルケゴス・ショックで巨額の損失を被った

しかし、2021年の春ごろから世界全体でインフレの進行が鮮明化した。2022年3月にはインフレを鎮静化するために米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始した。その後、米国、ユーロ圏、英国、カナダなどで金融は急速に引き締められ、世界的に金利は上昇した。

その結果、超低金利環境の継続期待を根底とするIT関連の株式や社債、暗号資産などの価格は下落した。企業、家計の利払い負担も増え、世界全体で需要の減少懸念も高まった。

そうした環境変化の裏返しとして、事業規模の小さい分、成長期待が余計に高まったITスタートアップ系企業や暗号資産関連企業の経営体力は急速に低下した。クレディ・スイスは、強気相場の変調にいち早く直撃された。2021年3月、同行は世界経済のデジタル化を背景に成長期待の高まった英フィンテック企業“グリーンシル・キャピタル”やIT関連銘柄などに投資を行った米アルケゴス・キャピタルとの取引から巨額の損失を被った。