若者の酒離れに関して、ニッセイ基礎研究所の上席研究員の久我尚子さんが2020年のレポートで興味深い分析をしています。厚生労働省の「国民健康栄養調査」では、「週3日以上、1日1合以上飲酒する人」を「飲酒習慣がある」と定義しています。この飲酒習慣のある人の比率は1997年頃は中年男性では約6割だったものが、2017年には約4割に落ちています。この調査は2017年のものなので、コロナ禍と無関係の生活習慣変化を示している点に注意してください。

この飲酒習慣率の落ち方が顕著なのはやはり若者で、20代男性は20年間で31%から16%とほぼ半減、30代男性は55%から25%と大きく減少しています。女性の飲酒習慣率はもともと低いのですが、20代女性も9%から3%へと3分の1に落ち込んでいます。

若者は決して飲み会が嫌いになったわけではない

では若者が飲み会に行かなくなったのかというと、そうでもないという証拠もあるそうです。たとえば日本能率協会が行った「2019年度新入社員意識調査」では、若者層もあいかわらず職場でのコミュニケーションを重視していて、飲み会にも参加する意思を持っているといいます。この調査では、同期との飲み会は約9割が、上司を交えた飲み会でも6割以上が「やりたい」と回答しています。

ところが飲み会に行ってもノンアルコール飲料を注文する。このようにお酒を飲まない人の中には、飲めない人だけではなく、飲まない人がけっこうな数でいらっしゃるそうです。

ここからひとつの仮説を立ててみます。以前の私の説は「お酒が嫌いな人が無理に飲まなくてもよい時代になった」「新ジャンルの登場で若い人たちがお酒はまずいと感じるようになった」という説でしたが、そうではなく「お酒が飲めるけれどあえて飲まない人が増えている」という要因が大きいのではないかという仮説です。

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「体質的に酒を飲めない」は少数派

実は「20年前には30代以上の男性の6割が飲酒習慣があった」という数字と良く似た数字があります。ビールに関する好感度の調査で「ビールが好き」という人の比率が日本人全体の6割いるのです。また「お酒に強いか弱いか」はアルコールを分解するALDH2型の酵素の活性遺伝子の型によると言われていて、日本人の場合、アルコールに強い遺伝子の人は56%ということでこの数字も6割と近い数字です。

そしてALDH2型の活性の弱い遺伝子型にも2種類あって、ある程度は飲める日本人が全体の40%、まったく飲めない日本人が4%だと言われています。ちなみに私は残念ながらこの説の4%に相当しているのでまったく飲めない(というか飲むと頭痛がして呼吸が苦しくなる)のですが、逆に言えば「お酒が飲めない」という人は「お酒を飲まない人」の中でも少数派と言えるのです。