90歳までにお金を使い切る

厚生労働省のモデル年金額では、妻がずっと無職であったサラリーマン家庭の場合の年金支給額は、月額で約22万円です。毎年海外旅行に行くとか、頻繁に豪華な外食をするということでなければ、日常生活はこの金額でも可能です。事実、前にも述べたように、私は定年後、夫婦2人でだいたい生活費は月に21万~23万円ぐらいでまかなえています。

もちろん、自分が何歳まで生きるかは誰もわかりませんから、「死ぬ時にゼロにしろ」といってもそんなにうまくはいきません。ただ、仮に90歳までに持っているお金を全部使ってしまったとしても、公的年金は死ぬまで支給されます。私の経験上、年を取るほどお金は使わなくなりますから、同じ年金額で支給されるのであれば、たとえ何歳まで長生きしようと生活に困ることはないでしょう。

だから私自身は、自分が持っているお金は、90歳までにほとんど使ってしまってもよいと考えています。

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もちろん、不測の事態に備えるために、ある程度の現金を持っておくべきだという考え方もありますし、それは間違いではありません。でも、どんな事態になるとどれぐらいのお金が必要かは、事前にある程度読めます。それに、自分のお金でまかなえないような事態に備えるには保険を使えばよいですから、必要以上に過剰なお金を蓄えたり増やしたりしておく必要はないと思います。

むしろ、人生後半に向けて考えるべきことは、「お金を増やす」ことではなく、「お金をどう使うか」ということでしょう。

「死」の間際に後悔すること

人間は「死」を意識した時に、人生で本当に大切なものは何だったのかということに気が付くのだそうです。

緩和ケアの介護を長年勤めて多くの人を看取ったブロニー・ウェアという人が、自分の体験に基づいて書いた『死ぬ瞬間の5つの後悔』(新潮社)という本があります。この本には、死を前にした時、人は何を思い、人生において何を後悔するのかが書かれているのですが、その多くは、「自分のやりたいことをもっとしておけばよかった」「もっと人とのつながりを大切にしておけばよかった」ということです。

私も70歳を超えましたので、あとどれくらい生きられるのかはわかりませんが、人生の終盤が近づくにつれて、人生で最後に残る大切なものは何だろう、と考えるようになりました。そして前述の本を読んでみて、一番大切なのは「思い出」ではないだろうか、と自分なりに考えています。人生の充実度を高めるのは、その時々の体験であり、それにまつわる思い出ではないのか、と。