ペレストロイカと新思考の価値

我々の時代は、新しい千年紀に人類が直面するどんな試練も脅威も、軍事的解決はできない。そして、どんな問題でさえ、一つの国や国家グループの力では解決できない。

冷戦からの出口で世界共同体は、具体的な課題の枠組みを示した。それは大量破壊兵器の根絶であり、《第三世界》の国々での大規模な貧困の克服であり、教育や健康分野におけるすべての人々への機会均等の提供であり、環境劣化の克服だった。いわば人間の安全保障である。

私が願うのは、ペレストロイカと新思考の目的や価値についての私の回想が、読者にとって今日の意味を考える手助けになることだ。過去と現在の対話が途切れないように、時代の絆を保ちたいと私は思う。過去について真実を知り、将来への教訓を引き出すことは、変わりゆく世界の中で、我々全員に必要なことだ。

ミハイル・ゴルバチョフ

世界政治の基盤をぐらつかせた米国の勝利者意識

副島英樹『ウクライナ戦争は問いかける NATO東方拡大・核・広島』(朝日新聞出版)

ここでゴルバチョフ氏は、冷戦での米国の勝利者意識が、新しい世界政治の基盤をぐらつかせたと明言している。西側がそれを自覚していたかどうかにかかわらず、少なくともロシア側はそう受け取っていた。回想録『変わりゆく世界の中で』でゴルバチョフ氏は、元米国ソ連大使のジャック・マトロック氏から聞いたレーガン氏の「口述」内容について書いている。ジュネーブでの最初の首脳会談に向けた準備をしていた1985年に、備忘録として記されたものだ。そこに非常に重要なフレーズが一つあると紹介している。

「勝者や敗者についての話はなしにしよう。そのような会話は我々を後戻りさせるだけだ」というフレーズだ。

レーガン氏はこの原則にのっとって行動していたと、ゴルバチョフ氏は振り返っている。レーガン氏を引き継いだブッシュ(父)氏についても、私がゴルバチョフ氏にインタビューしたとき、マルタで「お互いを敵とはみなさない」と固く握手を交わした瞬間を生き生きとした表情で振り返った。ブッシュ氏に信頼を寄せていたことが私にも伝わってきた。

1987年12月8日、ホワイトハウスのイーストルームでINF条約に署名するレーガン大統領とゴルバチョフ書記長。(写真=White House Photographic Office/PD/Wikimedia Commons