信じていた保育所に通告されたショック
自分の子どもがある日、保護される。親にとって、それはどのような体験なのでしょうか。
保護する側の児童相談所の立場であった私にとっては、彼らの多くは「自分を正当化し、理不尽な引き取りの要求をしてくる人」、あるいは「子どもを見放し責任を放棄する人」、「表面的には児童相談所の方針に合わせているけれど、本意が見えない人」でした。
「傷ついた子ども」がそこにいるのに、子どもに寄り添う気持ちが見えないことに悲しくなったり、怒りの感情が湧いてくることもありました。一方、マミちゃんの母、咲希さんはどんな状態だったのでしょうか。
保育園の先生はいつも親切にしてくれると思っていた。「マミちゃんはなかなか大変な子だね。手がかかって、ママも苦労するね」と私の大変さもわかってくれていた。それなのに、あの日いきなり、児童相談所から連絡があった。
「身体に不明な傷があるから保護しました。保育園から連絡を受けて子どもさんを預かっています」と言われた。なんで保育園はまず私に話してくれなかったの? ひどい! 先生たちはこれまでずっと私が虐待したって疑ってたの?
あの子が食事中にふざけていたから、危ないと手を出しただけで、あの子がこけて、あんなに痣ができてしまって。打ち所が悪くてあんなことに。連絡帳にも書いていたはず。確かに叩いていたけど……。保育園の先生が児相に告げ口したことがショックすぎる。
これからどうなるん? マミはもう帰ってこんの? そして、なんで、私やねん。もっと、ひどい親いっぱいいるのに。児相に「危ない母だから預かる」みたいな言われ方をしたのが許せない。なんで、私は危ないの。あの子の食事も特別に作っていたのに。
誰が自分を「虐待者」として児相に通告したのかということは、咲希さんにとっては大きな問題です。自分が「虐待する親」として通告されたこと、まず、そのことに大きく傷つきました。自分が子どもを傷つける不適切なことをした事実を認める前に、保育園の先生が自分に確認する前に、児相に通告したことに対して、ショックを受け、怒りを覚えているのです。
先が見えない不安
そして、咲希さんにはマミちゃんの突然の保護は、「この先どうなるのか」「いつ会えるのか」「自分はどうなるのか」など、今後の予測が全く見えてこないことでもありました。児相、一時保護も彼女にとっては未知の世界でした。彼女にとって見えないことは、恐怖でしかありません。ネットで検索すると、マイナスの情報ばかりが目に入り、よけいに不安になります。
・知っている人に「虐待者」として通告された→「被害者意識」「不信感」
・自分は親失格だ→「自信喪失」
・この先どうなるのか、全く見えない→「不安と恐怖」
あまりの大きな出来事に、一人で抱えきれない様子が窺えます。