植田新総裁は金融政策をまともな状況に戻すべし

アベノミクスにより、日銀はもうこれ以上できないくらいに金融緩和を行いました。アベノミクスは日銀を「使い切った」と言ってもいいでしょう。黒田総裁を引き継ぐことになる植田新総裁のミッション、それは日銀を少しでも正常な状況に戻す、つまり就任直後ではなくともそう遠くない将来に金利を上げることです。

黒田総裁は最近の会見でも、金融引き締めをする状況にはなく、金融緩和政策を継続していくというコメントを繰り返していますが、転換する時期であると筆者は考えます。

正常化すべき理由は大きく二つ。

ひとつは、少しでも金利を上げておかないと、次に景気後退が来たときに何もできないからです。米国では、コロナにより政策金利(フェッドファンド金利翌日物:一日だけ銀行間で貸し借りする金利)をゼロまで落としましたが、景気の回復やインフレに対応するために、現状では4.5%~4.75%に誘導しています。景気後退に備えて「のりしろ」を作ったわけです。景気に大きなかげりが見えたら当然引き下げます。景気後退に備える「フリーハンド(自由度)」がそれだけあるのです。

一方、日本では、図表1にあるように短期の政策金利(コールレート翌日物:米国と同じく銀行間で1日だけ貸し借りする金利)はゼロにへばりついたままで、先ほどから述べているように、他国の中央銀行では自由金利となっている10年国債利回りも上限でも0.5%しかなく、次に景気後退が来たときの自由度はほとんどありません。マネタリーベースもほぼ限界まで膨らんでいます。

金利を上げるべきもうひとつの大きな理由は、国民生活のためです。2000兆円ある個人金融資産のうち、約半分の1000兆円は預貯金です。もし、この預貯金に仮に1%でも金利がつけば、10兆円の金利がつきます。約20%の税金がかかりますから、8兆円が国民の懐に、2兆円は税として国に入るわけです。

写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn
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こうした話をすると、借金の多い企業などがやっていけなくなるではないかという人がいますが、この国がここ30年間ほとんど成長していない大きな理由は、ゾンビ企業が多く生き残っていることだと私は考えています。

ゾンビ企業で働く人は給料も高くなく、十分な社員教育も受けられません。金利上昇により、企業の新陳代謝が起こることのほうが望ましいのではないでしょうか。政府はM&Aを支援したり、ゾンビ企業で働く人のリカレント教育を補助したりすることで新陳代謝を促すべきです。

金利が上がれば、名目GDPの250%程度を超える財政赤字を抱える政府も大変になるという意見もあります。確かにその通りですが、金利が上がれば、財政規律についてもう少し真剣に考えると思います。

先ほども述べたように、多額の国債を抱える日銀も金利上昇により、その国債の含み損が増えるという懸念があります。現状、10年国債利回りの上限を0.5%にしたことだけでも、8.8兆円の国債の含み損を抱えると黒田総裁は国会で答弁していますが、同時に「満期保有が原則」とも発言しており、満期保有のスタンスを貫けるなら、日銀は金利上昇により実質債務超過となっても、当面は、問題は起こらないと考えられます。

この異常な状況を継続することは、日銀のみならず、日本経済の将来のためにも良くないことは明らかです。急激な引き締めは現状無理としても、徐々に「まともな方向」に政策を転換していくことを強く望みます。

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