身体的虐待で保護された4歳の女の子の場合

身体的虐待で保護された4歳の女の子、マミちゃんの場合は、お母さんとの面会の時、児童養護施設の百合先生が安全な避難所になってくれたので、百合先生を基地にしてお母さんである咲希さんに会うことができました。お母さんと会って、また何か不安なことがあると、先生にくっつくことで安心を得ていました。

宮口智恵『虐待したことを否定する親たち 孤立する親と子を再びつなげる』(PHP新書)

子どもたちは、どうすれば親や身近な養育者との間で安心感を得られるのかを、これまでの人生の中で体験的に学んでいます。そして自分の生存をかけて、主要な養育者との相互作用の中で、さまざまなことを試しています。「泣くと、親が不機嫌になって怒り出す。だから、不安で泣きそうになった時は親に近づかないようにする」といったことも、体験的に学んだ結果です。

マミちゃんもそうでした。自分が何か言うと母が混乱するので、一時保護された当初、最初は大人に泣いて訴えるということがなかなかできませんでした。家庭では自分より先に母が泣いてしまうことが多いので、マミちゃんが母親を慰めることが多かったのです。

まず、大人がすべきことは、マミちゃんが不安や恐れを表出するサインに気づいて、それに応えることでした。

恐怖を感じる子はこんなサインを送っている

安心感のない子どもたちは、さまざまな行動で、自身の不安や恐れのサインを示します。以下は子どもが養育者との関係に、恐怖を覚えているものと考えられる子どもの行動をアタッチメントの研究者の工藤晋平氏がまとめたものです。

子どもの恐怖のシグナルかもしれないこと
・いつも養育者の顔色を窺っている
・養育者のそばにいても安心した様子を見せない
・怖いことがあっても養育者のそばに行かない
・養育者に怯える
・親のように養育者の世話をする
・ぼうっとして意識がどこかに行っている時がある
・よくわからない刺激に強い不安を示す
・養育者との間で起きたことを覚えていない
・養育者や大人に日常的に敵意を示す行動をとる
・自分を危険にさらす行動をとる
・養育者の言いつけは自分に危険が及んでも守ろうとする
・養育者の明らかに不適切な行動をかばう
・極端に情緒的に不安定

工藤氏は「これらの行動が全て、養育者に恐れがある、不適切な関わりをしていることを示すものではありません。しかし、このような行動に注目してみると、子どもと養育者の関係の一端が見えてきます」と仰っています。まず、私たちが子どものシグナルに気づき、その意味を理解しようとすることから始まるのです。