「ありがとう」の力はすごい

こころの豊かさが感じられるメカニズムに関する内外の研究成果として、「脳内物質から放出されるホルモン」、「人と良好な関係を築くこと」、「4つの因子」がある。そこには、当然のことながら共通点も多い。中でもぼくが注目しているのは「感謝」だ。ソーシャルな生き物である人間には、人との良好な関係が必要で、良好な関係を築き維持するには、「利他」の行為とそれに対する「感謝」の気持ちが不可欠だと思うからだ。

では、感謝とはどういう意味なのか。

感謝の“感”は心の動く様を表している。そして“謝”は【言】(=言うこと)と【射】(=矢を手から放つこと)という漢字から成り立っている。つまり相手から何かをしてもらったことで、自分の心が動き、それを言葉の矢として放つということだ。

感謝の言葉として「ありがとう」があるが、漢字で書くと、「有り難う」だ。その状態が有ることが難しいことを意味している。

ここでは、この「ありがとう」の持つちからに焦点を当てるとともに、どうすればこれを自然と使いこなせるようになるか紹介する。

「ありがとう」と言うだけでオキシトシンが分泌される

米国ハーバード大学の成人発達研究所では、世界で最も長きにわたり(75年ほど)、大勢の人の人生を毎年追い続け、人の幸福と健康の要因について研究している。ハーバード大では「人と良い人間関係を築くこと」、慶應義塾大学の研究では「ありがとう因子」が、“幸せ”を得る上で極めて重要なキーワードであることがわかっている。

人から感謝されると自己肯定感が向上する。自分が役に立つことができたという感覚を得る。そして感謝の言葉をくれた相手に対して好感を抱く。何か別の機会さえあれば、その相手にまた同じようにしてあげたいと考えるかもしれない。

実際、“ありがとう”を言うことでオキシトシンとエンドルフィンが分泌されると言われている。さらには、言った人だけではなく、言われた人からも分泌するそうだ。すなわち、”ありがとう”の言葉で自分自身も相手も良い状態になるのだ。感謝の言葉が双方の人間関係をより良いものにするのは間違いない。

しかし、現代社会では”ありがとう”を言う機会、言われる機会が少ないように感じる。大きな力を持つこの素晴らしい言葉を、誰もが出し惜しみなくより使えるような社会が必要だ。