人から親切にされると、「すみません」と謝る人がいる。一般社団法人「giv」代表の西山直隆さんは「お礼よりも謝罪が口をついて出てくる人は幸福感が低い。『幸福学』の第一人者、慶應義塾大学の前野隆司教授の研究によると、お礼が言えない人は幸福感を構成する『四つの因子』のうち、『ありがとう因子』が弱いことが分かっている」という――。

※本稿は、西山直隆『こころのウェルビーイングのためにいますぐ、できること』(中央経済社)の一部を再編集したものです。

通勤電車の車内
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幸せを運んでくれる「四つの因子」

ぼくも日頃からお世話になっている方に、日本における「幸福学」の第一人者と呼ばれている慶應義塾大学の前野隆司教授がいる。前野教授は“こころ”に関係する幸せについて、「幸福学」として研究されている。

過去の幸福研究から幸せに関連する項目を徹底的に洗い出し、29項目87個の質問にして、15~79歳の1500人にアンケート調査を行い、その結果を多変量解析(因子分析)した。その結果、幸せを運んでくれる心的要因を学術的に明らかにしたのである。

それが前野教授の提唱する「幸せの四つの因子」だ。

幸せの四つの因子

① やってみよう因子
② ありがとう因子
③ 何とかなる因子
④ ありのままに因子

すべてを満たしている人は最も幸福感が高い

① やってみよう因子がある人は、自己実現を目指し、成長しようと頑張っている人。主体的にわくわくしながら頑張っている人は幸福度が高い。

② ありがとう因子は、つながりと感謝から生まれるもの。人とのつながりを実感すると、何ともいえない幸福感に包まれる。

③ 何とかなる因子は、前向きさと楽観性が鍵となる。細かいことを気にせず、失敗を恐れずにチャレンジできる人。

④ ありのままに因子は、人の目ばかり気にするのではなく自分らしく生きている人。自分の軸を持ち、それに従い行動する人。

すべての因子を満たしている人が最も幸福感が高い。また、幸せな人はどの因子も高く、逆に不幸な人はどの因子も弱いという。

この4つの因子は、脳科学的アプローチにも通ずる内容と言えそうだ。

「やってみよう因子」は、自己実現できている実感やその原動力を通してドーパミンが、「ありがとう因子」は、人とのつながりや感謝を通してオキシトシンが、「何となる因子」「ありのままに因子」は、精神的に安定した状態を維持できるセロトニンやオキシトシンも関係しているといえるのではないか。

米国ハーバード大学の成人発達研究所では、世界で最も長きにわたり(七十五年ほど)、大勢の人の人生を毎年追い続け、人の幸福と健康の要因について研究している。ハーバード大の研究は、この四つの中でも特に、「ありがとう因子」の”つながり”を中心に要素を抽出しているとも言えそうだ。

ここまで読んでいただいた皆さんの中には、すでに“幸せ”が解明されているのであれば、それを実際に社会に実装させる仕組みを導入すべきではないか、と考えられる人もいるのではないだろうか。

これらを踏まえて実社会の中でどんな行動をすればよいのか、考えていきたい。