認知症発症後も仕事を続ける各国の大統領

とくに、仕事の手順などに関する「手続き記憶」は、「意味記憶」(言葉やものの名前など)に比べると忘れにくいので、長年続けてきた手仕事などは、症状が相当進んでからでも続けられます。

なかには、「重職」を続けた人たちもいます。

ご存じの方も多いと思いますが、米国のレーガン元大統領は、退任後、認知症であることを公表しました。退任から4年後の1993年、82歳のときにアルツハイマー型認知症と診断され、翌94年、国民に対してそのことを発表したのです。

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周囲の話によると、大統領を2期8年務めた1期目の3年目あたりには、すでに認知症の症状が出ていたといわれます。実際その後も進行はゆるやかで、発症後10年ほど生きて天寿を全うしました。

また、英国のサッチャー元首相も、退任後、認知症であることを公表しました。こちらも、時系列からして、在任中に発症していたとみられます。

つまり、米英両国のかつてのリーダーは、ともに在任中に認知症を発症していたとみられるのです。そして、記憶力には問題が生じていたでしょうが、知能(思考力・判断力)は残存していたので、その問題が表面化することなく、一国のリーダーという重職を務められたというわけです。

認知症は「なにもできなくなる」わけではない

認知症と診断されても、「人生終わり」と絶望する必要は、まったくありません。認知症と診断されてからでも、普通の生活を送っている人は、いくらでもいるのです。

困った症状は薬でおさえることができますし、介護保険を使って受けられるサービスも増えています。そうして、できることを「続ける」ことが、病気の進行をおさえ、「人生の質」を高めることにつながります。

家族など周囲も、認知症の患者さんから、「できること」を奪わないことです。経験でつちかった能力や技術は、認知症になっても、しっかり覚えていることが多いのです。認知症患者の脳と体に残る能力や技術をあなどることなく、できることを一日でも長く維持できるようにサポートしていきたいものです。