東大勉強会で得た多様な医師との親交

東京では虎の門病院から徒歩圏内、新橋のワンルームマンションを借りた。便利な場所ではあったが、築40年以上の古い建物だった。物見遊山の気分で銀座や渋谷などテレビで観たことのある場所に行ってみた。しかしそれもすぐに飽きた。

「一人で回っても楽しくないことに気がついたんです。それからは仕事場とマンションの往復の毎日でした」

と笑う。坂本は根本と一緒に関東一円、東海地方の医療機関を回ることもあった。

「脳血管内治療をやる先生がそんなにいなかったので、いろんなところから根本先生が呼ばれるんです。だいたいぼくが付いていって2人で手術をする。根本先生と一緒に様々な症例の経験を積んだことは非常に大きかった」

さらに根本は脳神経血管学会の専門医試験のために東京大学医学部の勉強会を紹介してくれた。

写真=中村 治

「東大だけでなく、いろんな大学から勉強に来ていました。東大(医学部)のOBの先生たちが講義に来て資料をくれるんです。その資料の出来が良くて、すごく勉強になりました」

この勉強会でさまざまな医師と知己を結んだことは坂本の大きな財産となった。そして当初の予定通り、専門医試験を受験するため、東京生活は1年で切り上げることにした。

「今から考えれば、虎の門での生活は良かったので、もう少しいても良かったのかなと思います」

「脳血管内治療は天職」と感じた瞬間

松江市立病院を経て、2005年にとりだい病院に戻った。根本と離れてみると、自分の至らない部分が目に付いた。

「自分一人でできるという自信があったんです。確かに手は動かせるんです。でも治療はそれ以外の部分も必要。どのように手術を進めるかという戦略、知識、経験。根本先生がカバーしていてくれたんだと気がつきました」

坂本は他の医師の手法を学ぶため、日本全国の評判の高い病院の視察に出かけている。こういうやり方があるのかと改めて目を開かされたこともあった。医師という職業にやり甲斐を感じたのはその頃だ。脳血管内治療は自分の天職ではないかと思うようになった。

しかし、好事魔多し。姉から父の具合が悪いことを知らされた。