自分が理想とするお茶を相手に押し付けてはいけない

茶は服のよきように点て(気配りの大切さ)

「服」とは飲むこと、「服のよきよう」とは、飲む人にとってよい加減であるということを指します。

つまり「お抹茶は、飲む人にとってちょうどよい加減になるように点てなさい」という意味になります。

自分が理想とするお茶を相手に押し付けるのではなく、飲む人の気持ちにたってお茶を点てることが茶道の根本であり、気配りを持って接しなさいという教えです。

飲む人が美味しいと喜んでくださるお茶を点てるのが、茶道のおもてなしなのです。

私の茶道体験のお茶室には、小さなお子様からご年配の方、外国の方など様々な人々がいらしてくださいます。

美味しいお抹茶を点てるためのお茶の量やお湯の量、温度など基本はありますが、やはりそれぞれのお客様にあった丁度よいお抹茶を点てています。

例えば、小さなお子様ならお抹茶の量を少なめにして、ぬるめのお湯でお抹茶を点てます。すると、「お抹茶、美味しかった」「もっと飲みたい」とお子様にも喜んでいただけます。

ご年配のお客様が、お菓子をゆっくりと召し上がっている時には、召し上がり終わった頃にお抹茶ができあがるように調整します。

こちらのテンポに合わせてせわしい思いをさせてしまうのではなく、お客様の状況に合わせて、丁度よい頃合いにできあがったお抹茶をお出しすることで、お客様にもゆっくりと美味しいお抹茶を召し上がっていただくことができます。

一人ひとりに寄り添い、その時々に合わせて「心を込める」

また、外国のお客様が多くいらしてくださるので飲みやすいお抹茶をとの想いから、宇治のお茶屋さんを歩き回り、苦みが少なく甘味がある特別ブレンドの美味しいお抹茶を探し出しました。

そのかいあって、外国のお客様にも「こんなに美味しいお抹茶は初めてです」「お抹茶は苦いと思っていましたが、とっても美味しかったです」とお喜びいただいております。

写真=iStock.com/kumikomini
※写真はイメージです

寒い季節なら温かいお抹茶を、暑い季節なら冷たい冷抹茶をお出しすることもあります。

その時々のお客様の状況やお気持ちを察して、気配りすることでお客様に美味しいお抹茶を召し上がっていただくことができます。

相手の状況や気持ちを汲み取り、誠心誠意を持ってお抹茶を点てることは、お茶の世界だけでなくビジネスにも実生活にも活かすことができるかと思います。

例えば、相手に寄り添い、何を求めているかを考えた上で、相手の立場になってプレゼンをしたり、応対したりすることで仕事もプライベートも円滑にまわるかと思います。

基本は勿論大切ですが、一人ひとりに寄り添い、その時々に合わせて「心を込める」ことこそが、相手の心を動かし、お喜びいただけることだと思います。