一方で分譲地の更地というものは、他に無数に存在する「住宅予定地」という選択肢のひとつにすぎない。ところが地元の子育て世代で、70~80年代に開発された古くて狭い旧分譲地を、新築用地の選択肢に含めている人はまずいない。地元出身者にこれらの分譲地について尋ねても、皆口を揃えて一様に「狭すぎる」と語る。
古い限界分譲地は、もはや住宅用地としてみなされていないのだ。地元業者もそれがわかっているので、いくら価格が安くても、学校が遠い旧分譲地を大きくアピールして売り出すことはしない。
浮世離れした“売値”をつけたがる所有者の心理
住宅地の価格というものは、一概に駅や商業施設からの距離だけで簡単に算出できるものではなく、その街ごとに異なる事情が繊細に反映される。しかし、多くの限界分譲地の地主は遠い都市部の在住者で、ほとんどの場合、そうした地元の不動産市場についての知識をまったく持ち合わせていない。
今でも限界分譲地の空き地は大量に売りに出されている。
草刈りの業務を請け負う会社が広告を出していることもあれば、地元の仲介業者が広告を出していることもある。まれに、東京都内などの都市部の仲介業者が、得意客にどうしてもとせがまれたのか、手間賃にもならない手数料しか取れないような価格の売地広告を出していることもある。
だがそのほとんどが、地元の需要や相場価格を熟知して値付けされた価格であるとは言い難い。
近年では、売主個人が発信できるウェブサイトで分譲地が売りに出されている。その中には、長年所有していたが、若い世代の方のために格安でお譲りしたい、と書かれたものもあった。だが、実際にはその売地は格安でもなければ、若い世代が欲しがる立地でもなかったりする。
こうした浮世離れした売地の広告を見るたびに、筆者はやりきれない思いに囚われてしまう。限界分譲地の地主の方々も、別に悪意を持って不当に高い価格で金銭を巻き上げようと企んでいるわけでもなく、おそらく葛藤や妥協の末に価格を決めたのだろう。