筆者が暮らしている千葉県の横芝光町もその典型だ。近年、学校の統廃合が続いている同町においては、鉄道駅の総武本線横芝駅周辺よりも、駅から徒歩30分以上掛かるような小学校周辺の宅地のほうが高いことがある。

その宅地の周囲には商業施設もなく見渡す限り田畑ばかりで、一見しただけでは地価が上昇するようなエリアにはとても見えない。だが、学校が近く、現代の需要に適合した造成が行われているというこの2点によって、坪単価は町内の他地域と比較して、最大で10倍以上の価格になっている。

小学校近隣に開発された新興住宅地
筆者撮影
小学校近隣に開発された新興住宅地。駅からも遠く、周囲に商業施設もないが、他に新築用地に適した造成地がないため、子育て世代の住戸が立ち並ぶ。(千葉県横芝光町宮川)

筆者のように子供のいない世帯から見ると、その価格差には戸惑うしかないのだが、裏を返せば、新築用地を求める子育て世代にとって少子化による地方の教育環境の縮小は、それだけ切実な問題なのだ。

狭くて、学校から遠い分譲地はタダ同然でも売れない

家余りが指摘される今の時代、なおも続く新築住宅の建築について「日本人の新築信仰」なる奇妙な言説がその原因として挙げられることがあるが、実際には、生活環境の急速な変化に不動産市場の変化が追いついておらず、立地条件と品質の両者を満たした中古住宅の供給が今なお不充分であることが最大の原因であろう。

その状況の中、そもそも現代の宅地需要が求める規格を満たしていないうえ、さらに近隣の小学校も閉校してしまっているような限界分譲地が、果たして新規の宅地として市場で太刀打ちできるのだろうか。

統合先の小学校まで児童を送迎するスクールバスの停留所
筆者撮影
閉校校舎の前に、統合先の小学校まで児童を送迎するスクールバスの停留所が設置されている。(千葉県富里市十倉)

もちろん、子育て世代であるからと言ってすべての世帯が自宅を新築するわけでもなく、経済的な事情などから、中古住宅や貸家を選択する世帯もあるので、建物がある場合は必ずしも需要がないわけではない。しかし更地の場合は、もはや住宅地として再起する望みは完全に絶たれていると言っても過言ではない。

学校の統廃合による影響を受けているのは既存の農村集落も同様であるとは言え、農家は家業として農業を行うために、どうしてもその地に住まねばならない理由がある。長年その地に住み続けているため地域社会との繋がりも強く、分譲地の住民とは単純に比較できない。