「独立国として必要最小限の基盤的な防衛力を保有する」
政府は基盤的防衛力について、こう説明している。
「我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺地域の不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという考え方である」
つまり、日本があまりに弱すぎれば、外国が「これは侵略できるぞ」と思うかもしれない。だから、必要最小限の防衛力だけ持っておこう、というのが基盤的防衛力だ。
具体的には「限定的かつ小規模な侵略」が起きても、自衛隊だけで敵を排除する能力だけは持っておき、米軍が助けに来てくれるのを待とうということになった。もっと大規模な侵攻が発生しそうになれば、自衛隊も急いで防衛力を拡張(エキスパンド)して敵を迎え撃つ。この考え方も防衛計画の大綱に盛り込まれ、「エキスパンド条項」と呼ばれた。
自衛官の定員数と正面装備の内容だけを定めた別表の存在
防衛計画の大綱は、自衛隊にとって呪縛のような存在になる。その理由は、最後に掲げられた「別表」だ。この別表には、基盤的防衛力として必要な装備とその数が書いてある。たとえば、一番最初の1976年の防衛計画の大綱の場合は、自衛官の定数は18万人で、護衛艦(当時の用語では対潜水上艦艇)約60隻、潜水艦16隻、と書いてある。陸上自衛隊なら12個師団・2個混成団を擁し、航空自衛隊は作戦用航空機約430機を持つことになった。
この別表があるおかげで、防衛省は計画的に装備を取得できる。なにしろ、閣議決定された文書なのだ。財務省にも「別表に書いてあるから、ちゃんと予算をつけてもらわなければ困る」と言いやすくなる。逆に言うと、この目標数値さえ達成できないのであれば、自衛隊は最低限の防衛力、つまり大綱で定めた「基盤的防衛力」さえ持ち合わせていないことになる。
この別表に書いてあるのは、正面装備と定員だ。弾薬や燃料については書いていない。軍事的常識を踏まえれば、正面装備だけそろえて弾薬や燃料はすぐに枯渇してしまう軍隊では軍隊の体をなしていない。だが、東京で防衛力整備や予算を担当する自衛官の心理としては、別表の目標を達成できない事態だけは何としても避けたい。この結果、正面装備至上主義が生まれてしまう。