軍需産業は「わが世の春」を謳歌している
ロシア軍のウクライナ侵攻は12月24日で10カ月になるが、ロシアの代表的な国際問題専門家、ドミトリー・トレーニン氏は最近の論文で、「双方に決め手がなく、越年どころか、今後数年続くことを覚悟したほうがいい」と予測した。戦争長期化の背後で、米軍需産業の暗躍も無視できない。
世界最大の軍需企業、ロッキード・マーチン社の株価は12月、496ドルと史上最高値を付けた。ミサイルや電子戦装備で知られる世界2位、レイセオン・テクノロジーズの株価も最高値水準で推移した。今年の米国株は全般に低迷したが、軍需産業はウクライナ侵攻で「わが世の春」を謳歌している。
「ウクライナ戦争は都合の良いタイミングで始まった」
米議会は12月、過去最大の8580億ドル(約117兆円)に上る23年度国防予算案を採択した。バイデン政権が要求した額に450億ドルを上乗せし、日本の23年度当初予算案の一般会計総額(114兆円)を上回る。
米国のウクライナ向け軍事援助はまだ3兆円に達しておらず、軍需産業は兵器の増産と売り込みに躍起だ。
今年の世界の国防予算総額は推定2兆3000億ドル(314兆円)と空前の規模に上る見通し。安全保障上の危機拡大で、日独などは国内総生産(GDP)比2%への国防費増額を決めており、ほぼすべての国が今後国防予算を増額する。軍需産業の出番が拡大し、ドル箱となる。
かつてベトナム戦争が予想外に長期化したのは、軍需産業が議会や国防総省に兵器の開発・売り込みでロビー活動を行った要素も見逃せない。
冷戦終結後の1990年代は、国防予算激減により、多くの軍需企業が倒産や合併を余儀なくされた。戦争は軍需産業発展のバロメーターなのだ。
米国の軍事専門家、ダン・グレーザー氏は、「米軍需産業にとって、ウクライナ戦争は都合の良いタイミングで始まった。昨年夏のアフガニスタンからの全面撤退で、各企業は国防予算減や収益悪化を覚悟していた。戦争で一部の人が大金を手にする構図は、昔も今も変わらない」と指摘する。