タバコを吸い、酒を片手に指導する監督

もう一つ、指導者の問題がある。

日本の野球界では「年齢が下がるとともに、指導者のレベルも下がっていく」と言われる。

野球界には全世代、プロアマを統括するような団体がなく、指導者ライセンス制度も確立していない。

小学野球の指導者の中には「子どもが野球を始めたのをきっかけに指導者になり、そのまま指導を続けている」ような人がいる。

指導者講習会などにもあまり行かず、スポーツ医学の知識も少なくただ自分の経験だけで指導をしている人が相当数いる。

年齢も高めだ。中には昔の「巨人の星」よろしく「ど根性で勝利を目指す」指導者もいる。ベンチでタバコをくゆらしたり、ひどいケースでは缶ビールを片手に指導する監督もいる。

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そういう指導者のほとんどが、ボランティアだ。「無給で教えてやっている」という意識があるから自らアップデートすることもない。

この手の指導者の中には「目先の勝利」を優先する人が多い。「○○大会で優勝した」「全国大会に出場した」みたいな実績を求めて、子どもたちに無理を強いる指導者がいるのだ。

彼らが、対戦相手のレベルが低いとみるや「楽にコールド勝ち」するために「四球→盗塁→守備の乱れ→得点」の「無限ループ」をさせるのだ。

そして相手投手を委縮させるために「ピッチャーノーコンだよ!、(ストライク)入んないよー」とやじったり、「そら走った!」とバッテリーを惑わせる声をかけたりする。それも、みんな大人が教え込むのだ。

「無限ループ」をされたチームは「野球をしている」という実感もないままに敗退する。嘲笑され、罵声を浴びせられ「二度と野球なんてするか」と思う子がいても不思議ではないし、「こんなひどいスポーツさせたくない」という親も出てくる。

一方で、こうした「勝利至上主義」の指導者を、もろ手を挙げて支持する親もいる。「あの監督は子どもに勝負の厳しさを教えてくれる」「何が何でも勝つという根性を叩き込んでくれる」、そして「厳しくやってください」「遠慮なく叱ってください」と言う。監督もその気になってさらに「おらおら」で子どもを指導するのだ。

「君たちはスポーツマンシップを知らないのか?」

そういう指導者が、自分たちの「勝利至上主義」はおかしいのではないか、と気が付くのは海外遠征に行った時だ。

海外へ行ってもそういう指導者は、相手が弱いとみると「無限ループ」を発動し、圧勝する。試合が終わると、相手の監督が近づいてくる。

「お前たちは確かに強いが、俺たちはお前たちみたいな試合は絶対にしない」

言葉はよくわからなくても、怒気を含んだ口調で何を言っているかが分かる。

また、指導者は大会の役員から

「君たちはスポーツマンシップを知らないのか?」と窘められたりもする。

こうして「自分たちは、変な指導をしているのかもしれない」と気づくこともあるのだ。

スポーツマンシップは、すべてのアスリート、指導者、スタッフが持つべき「心のパスポート」のようなものだ。その基本は「リスペクト」だ。

指導者、チームメイト、対戦相手、審判、スタッフそしてルール、競技そのものを「リスペクト」するところからすべてのスポーツは始まる。日本人の中には「そんな綺麗ごとを言ってて勝てるか!」と言う人もいるが、それは「井の中の蛙」というべき愚かな態度だ。

スポーツとは元来「人々の健康で文化的な生活」のためにある。喧嘩や戦争の「代償行為」ではない。