アミロイドβの量が増えるとアルツハイマー病になる

何か見落としているのだろうか。おそらく、アルツハイマー病の基本的な真実をまだ理解できていないのだ。そうでなければ、あらゆる試みが失敗したりするだろうか。この病が、他の事実上すべての病気と違って、人間に特有の病気であることも研究の妨げになっている。例えば、マウスはガンにはよくなるが、アルツハイマー病にはならない。

この病を研究する科学者たちは、アルツハイマー病に似た症状を持つマウスを人工的に作り出さなければならなかった。そして、その治療を通じて得た知識を人間に生かそうとしている。

もしかすると、アミロイドβの塊がアルツハイマー病に関与していると考えるのは間違っているのだろうか。しかし、その可能性はきわめて低い。ダウン症の人はアルツハイマー病になるリスクが高く、それもごく早い時期に発病する。ダウン症は21番染色体が1本多いことが原因であり、その染色体上にアミロイドβ遺伝子がある。この事実が示唆するのは、アミロイドβの量が増えるとアルツハイマー病になるということだ。

写真=iStock.com/Dr_Microbe
※写真はイメージです

アルツハイマー患者の脳でも同じことが起きていると科学者たちは確信している。通常より多くのアミロイドβを生成しているか、あるいは、除去するのが下手なのだ。どちらの場合もアミロイドβは一種の老廃物と見なすことができる。アミロイドβの本来の機能はわかっていない。わかっているのはアルツハイマー病との関係だけだ。つまり基本的にはこういうことになる。わたしたちは目的のないタンパク質を生成し、老年になるとそれが脳の中に塊を作り、わたしたちを殺すのである。

アミロイドβは微生物を殺す働きを持つ

だがこの筋書きは少々信じがたい。なぜならアミロイドβを生成するのは人間だけではないからだ。

それどころか、このタンパク質は長い進化の過程を通じてきわめてよく保存されてきた。サルもマウスも持っており、魚類さえ持っている。それに、これらの動物のアミロイドβは人間のものとほぼ同じだ。こういった事実はこのタンパク質に重要な機能があることを示唆している。

もし重要な遺伝子に変異を持つ個体が生まれたら、その個体は往々にして他の個体より脆弱ぜいじゃくで、次世代に多くの子を残すことができない。つまり、重要な機能を持つタンパク質は進化の過程を通じてあまり変化せず、他の種のものとも似ていることが多いのだ。

ではアミロイドβが重要だとしたら、その機能は何だろうか。最も可能性が高いのは微生物と闘う武器になることだ。

微生物の培養液にアミロイドβを入れると微生物が死ぬことを科学者たちは発見した。アミロイドβは微生物の周りに凝集し、無力化して息の根をとめるのだ。さらには、念のため、厳重に保存する。このみごとなメカニズムが起きるのは実験室で培養した微生物に対してだけではない。

マウスの脳に細菌を注入するとアミロイドβはさっそく活性化し、細菌の周りに集まって塊を作る。そのため、アミロイドβを持つマウスは細菌を注入されても生き残りやすいが、アミロイドβを持たないマウスは細菌によって死ぬ。さらに、アルツハイマー病の遺伝子研究から、この病気の発生に免疫システムが何らかの役割を果たしていることがわかっている。