青学大・原監督になくて駒大・大八木監督にあるもの

スピードランナーが育ったことで、駒大は全日本大学駅伝で圧倒的な強さを誇るようになる。大八木が指揮を執るようになって27年連続出場して、15度の日本一。2011~2014年には4連覇も達成している。

一方で前回まで7度の優勝を飾っていた箱根駅伝は苦戦した。2009年以降の制覇は創価大が10区で大失速した2021年の一度だけ。原晋監督率いる青山学院大が初優勝した2015年からの8年間で6勝を積み重ねた裏で、かつての王者は苦悩の時代を過ごした

「箱根で勝てるようになった後は世界に通用する選手を育てたいという思いが強くなったんです。一時期、勝てなくなった時は、箱根で勝負して、世界で活躍できる選手も育てる、この2つをやろうとして、なかなか難しかったなという部分はありますね」

撮影=プレジデントオンライン編集部
1月2日のJR埼京線車両内

大八木の教え子は、日本代表として世界選手権やオリンピックに8人も羽ばたいている。なかでも特別な存在が藤田敦史と中村匠吾だろう。ふたりは大学卒業後も母校を練習拠点にして、大八木から指導を受けていた時期があった。そして藤田は男子マラソンで2時間6分51の日本記録(当時)を樹立。中村は東京五輪の男子マラソンに出場した。

一方、青学大・原晋監督は箱根駅伝で圧倒的な結果を残しているが、全日本大学駅伝の優勝は2回だけ。教え子たちのなかに世界選手権やオリンピックに出場した選手はまだ出ていない。

大八木の指導者としての“すごみ”を数字が証明している。そして陸上の神様からさらに特別な選手を授かることになる。それが現在4年生の田澤廉だ。

田澤は箱根駅伝の優勝を目指しながら、同時に世界を本気で狙ってきた。全日本大学駅伝は4年連続で区間賞を獲得して、チームの3連覇に貢献。箱根は3年連続で花の2区を務めて、2度の総合優勝をもたらしている。田澤のすごいところはトラックでも日本トップクラスの活躍を見せたことだ。3年時は12月に10000mで日本歴代2位(日本人学生最高)の27分23秒44をマーク。昨夏はオレゴン世界選手権10000mに出場した。

田澤のスケールの大きな走りと、世界と本気で勝負するんだという気迫に大八木の心は大きく揺さぶられることになる。