黒人をあえてテーマに据えるイギリスの風潮

ここには、イギリスの人種差別問題のオモテとウラの二重構造があると塩田さんは言う。

オモテは、例えば「バンクオブイングランド」(英国中央銀行)の博物館が、その昔、奴隷貿易で財を成したことを反省し、展示物の半分を黒人奴隷に関するものに変えたことに象徴される。また、大手保険市場「ロイズ保険組合」も奴隷船の保険を扱ったことを謝罪し、黒人や少数民族を支援する団体に資金を提供すると表明した。

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さらには、170年の歴史を持つロンドンの「ビクトリア&アルバート美術館」(V&A)では、2022年には、開館以来初めて「アフリカファッション展」を開催。あちこちの美術館や博物館などで黒人をフィーチャーする展覧会が開かれ、むしろ食傷気味だと塩田さんは言う。

「バンクオブイングランドの博物館を見に来る人の大半は、銀行のシステムに興味があって、黒人問題にはそれほど注目していないでしょう。また、V&Aをはじめとした黒人関連の展示物のクオリティが高ければいいのですが、なかにはそうでない場合もあります。たくさんの有色人種の中でも“黒人”を扱っておけば、無難だし今風だと思っている節もあります。だから差別の根本的な問題が解決されているかといえば、疑問ですよね」

一方、メーガンの人種差別問題はウラだ。

開かれた王室の象徴として、世の中の潮流として、最初はそれなりにメーガンに好意的だった王室メンバーも、ついつい「肌の色」発言が出た、周囲も彼女のアメリカ式の振る舞いに嫌気がさして、冷たく当たるようになった――というのが、リアルなところか。

それに対してメーガンが黙っておらず、夫のハリーも、母ダイアナに似た境遇の妻のために戦う姿勢を決めたのだろう。

自身をスペアと呼ぶのは、挑発か、自虐か

ハリーにとって(ウィリアムにとっても)ダイアナの悲惨な事故死はぬぐいきれないトラウマになっている。25年前、ダイアナは常軌を逸したパパラッチに追い詰められて亡くなったが、夫の不倫や王室メンバーに受け入れられず離婚したことも、早逝の遠因だといえる。これに関しては、ハリーへの同情を禁じえない。

しかし、『ハリー&メーガン』の次は、アメリカで出版されるハリーの自叙伝『SPARE』(スペア=予備)の発刊が2023年1月に控えている。

『ハリー&メーガン』は『SPARE』の序章に過ぎないという意見もあり、ハリーとメーガンが仕掛ける王室やパパラッチへの闘いは、これからが本番だということだ。

「イギリスでは、王室の高位メンバーを指して、王位継承者をHeir(エアー=継承者)、それ以外をSpareと呼ぶ習わしがあります。エリザベス女王がエアーで、妹のマーガレット王女がスペア、皇太子時代のチャールズ国王がエアーで、弟のアンドルー王子やエドワード王子がスペアということ。ハリー王子はずっとウィリアム王子のスペアでしたが、現在では、兄の子供達の継承順位の方が高いので、スペアですらない。そんな立場や半生を嘆いてか、自叙伝のタイトルが付けられたのでしょう」

しかし、次男坊だからこそ甘やかされ、少年時代の不良行動も、大学に行かなかったことも大目に見られてきた。アフリカ系アメリカ人の混血で離婚歴があるメーガンとの結婚も許された。それもこれも、ハリーがスペアだったから。