残酷なデータにみんなの顔が青ざめていく
【村井】みんなには「自分は何試合くらい出場できると思う?」と考えてもらいました。希望に満ち溢れている新人選手たちは、およそ半分の150~200試合くらいは出られるんじゃないか、そんな反応でした。でもデータは残酷です。実際には103人のうち46人が50試合以下の出場で、そのうち18人は一度も試合に出ないままJリーグを去っているのです。
この事実を伝えると、みんなの顔が青ざめてくるのが分かります。選手の現役期間は平均6.3年と、とても短い。せっかくプロになっても1試合も出ることなく引退する選手がいることもわかります。先ほども言ったように彼らは個人事業主ですから、頑張って頑張ってプロになっても、パフォーマンスが悪ければ出場機会は得られず、シーズン終了後にクラブに「契約金0円」を提示されたら、そこで放り出されるわけです。自分一人ですべての結果に対して責任を負う。それがプロというあり方なんですね。
5年後、チェアマンに届いた選手からの手紙
――めでたい門出の日に「何もそんな厳しい話をしなくても」とも思いますが。
【村井】ですよね。でもそんなことは誰も教えてくれないだろうから、あえて厳しい現実を突きつけました。そのデータを踏まえた上で「今から5年後の自分宛に今の決意を手紙に書いてください」とお願いしました。「手紙はJリーグで預かり、5年後に皆さんの実家に送ります」と。データが示す通り、5年後はプロのサッカー選手ではないかもしれないし、クラブを移っているかもしれませんから。
――みんな、何を書いたんでしょうか。
【村井】それは私にもわかりません。ただ5年後にその中の一人が私に手紙をくれました。2015年にゴールキーパーとしてファジアーノ岡山のトップチームに昇格した木和田匡君という選手でした。同じ年にファジアーノ岡山に移籍した元日本代表の加地亮選手なんかに、ずいぶんかわいがられたと聞いています。
本人は入会研修で手紙を書いたことを忘れていたそうですが、5年後に実家に届いた手紙を見て驚いたそうです。
木和田君は3年でプロのキャリアにピリオドを打っていました。ファジアーノ岡山で出場機会に恵まれず、ヴァンラーレ八戸に期限付きで移籍したのですが「サッカーだけで生活できないのであれば、仕事とサッカーの両立は難しいので、いったん、サッカーから離れよう」と決断したそうです。