「今日は何もないです」「迷っています」でもいい
【村井】結果として2ステージ制は2年間で終わり、もとの1シーズン制に戻るのですが、情報を開示して、フィードバックをもらって、それを材料に立て直すということをJリーグはやってきました。この姿勢はその後、育成プランとかフットボール・ビジョンの策定とかコロナ対策とか、さまざまな場面で生かされることになっていきます。
その上で、今シーズンのJリーグはどうだったのか。うまくやれたのか、やれなかったのか。世間に対してそれを包み隠さず報告するのがPUB REPORTの役割ですね。
――「日本のサッカーがどれだけ、いけていないか」を詳らかにしたことで、世界との差を埋める地道な作業が始まり、その積み上げが今大会でのドイツ戦、スペイン戦につながったと考えることもできます。現場や取引先からフィードバックを受けるというのは、村井さんがいたリクルートでも経営陣がやっていました。
【村井】創業者の江副浩正さんが社長の時は「360度評価」と言って、取締役が社長を評価する制度がありました。それと同じでJリーグにも、25人の部長、本部長がチェアマンを評価する仕組みがあります。中には手厳しい意見もありますが、とにかく情報を開示して、フィードバックをもらって、立て直す。その繰り返しでした。
2020年にはチェアマンとして年間で71回の記者会見を開きました。時には開示すべき情報がなくて「今日は何もないです」という日もありました。結論が出ていなくて「その件については、まだ迷っています」という日もありました。それも含めて情報ですから、それでいいと思っていました。
経営者だからこそ本音のフィードバックをもらう
【村井】時には「世間には、ちゃんとリカバーしてから話そう」と思うこともないわけではありませんでしたが、それでも、何かが起きたらすぐに世間に開示する、という姿勢を貫きました。
Jリーグに対して、いつも厳しいことを言ってくるセルジオ越後さんには「そんなに言いたいことがあるなら直接話そうじゃないか」と機会を作りました。今では大切な飲み友達です。2015年にはホリエモンこと起業家の堀江貴文さんや、慶應義塾大学の教授だった夏野剛さん(現KADOKAWA社長)といった方たちとアドバイザー契約を結び、率直に耳障りの悪い事も言ってもらえる仕組みを作りました。
米国のグーグルには世界16万人の社員が経営者を評価する仕組みがあるそうです。本音のフィードバックをもらうというのは、経営者にとって大切なことです。Jリーグ・チェアマンの立場でいえば、サッカーはサッカーを愛するすべての人のものですから、Jリーグで起きたことは良いことも、悪いこともファン、サポーター、世間に包み隠さず伝えるのが筋だと思います。