駆け込み計上の経費がほぼNGに
そして迎えた調査最終日の午後3時過ぎ。
吉田さんは若い方の職員から「ちょっといいですか」と声をかけられた。ひととおり確認が終わったので説明したいという。最終的な調査結果の説明は後日あらためて行われるとのことだが、現時点で明らかな申告誤りについて説明がなされた。
その説明を聞くうちに、吉田さんは思わず「え!」と声を上げてしまう。
驚いたことに、なんと吉田さんが昨年末に払った経費のほぼすべてが認められなかった。さらにその前の年までの確定申告の内容からもさまざまな間違いを見つけられた。
「どうしてだめなんですか?」
「だって、車やカメラは実際に仕事に使っていますし、妻に渡した200万円も正当な仕事の報酬ですよ。どうしてだめなんですか?」
そう吉田さんが反論すると、職員は一つひとつルールを説明し始めた。
まず、車代とカメラ代のような10万円以上の支払いには減価償却の計算が必要で、購入代金の一部しか経費にできないという。減価償却とは、建物や車など、長期間利用できる資産を、耐用年数に分割して経費にするというルールだ。
吉田さんが12月に購入した新車の耐用年数は6年(72カ月)だ。この車を吉田さんが前年に使用したのは1カ月だけだったので、購入費の72分の1しか経費として計上できない。カメラも耐用年数5年であるため、同様の計算を行う必要がある。
次々否定される経費計上…
次に、妻に支払った200万円の報酬については、なんと1円も認められなかった。同一生計の家族の場合、給料や報酬を払っても経費としてカウントされないのが原則なのだ。
3つめの指摘は、経費にしていた家賃や光熱費。税務のルール上、家賃のように個人用と事業用を兼ねているものは「家事関連費」という扱いになる。こうした費用は、業務に関連する割合を計算して、一部だけが費用にできると職員は話す。
このほか、領収書やレシートがなく、きちんと使い道を説明できなかった支出のいくつかも、経費としては認められなかった。