日本人を待つ「低レベルの余生20年」

医療を巡る問題は今後さらに深刻化するだろう。

平成の30年間、日本の経済成長率は世界主要国最低だったが、平均寿命は主要国トップで、現在も延び続けている。低成長のまま少子高齢化が進めば、公的医療や福祉制度の維持は不可能だ。平均寿命が延びれば延びるほど、低レベルの老後生活で我慢するしかなくなることは忘れられている。

WHOの世界保健統計(2022年)によると、日本の平均寿命は84.3歳で米国は78.5歳。労働人口を65歳までとすると、余生は日本が19.3年で米国は13.5年。2カ国の高齢者が同じ蓄えで引退したと仮定したとき、日本の高齢者が1年間に使えるお金はアメリカ人の3分の2という計算になるのだから、長寿化より経済成長にもう少し軸足をシフトした方が賢明だ。

世界の優秀な理系人材はITや先端産業へ

理系の優秀な人材が医学部に流れ過ぎているのも問題だ。いまの世界で最も優秀な若者が必要なのはIT、先端産業、金融工学などであり、アメリカでも中国でもそうした業種に野心的に向かっているのに、日本の優秀な若者が目指す職業が安全・有利な医師では、国の未来は真っ暗だ。

とくに、地方では地元にとどまりたいなら医師ということになって、企業経営者まで男女問わず子供を医学部に行かせて安泰を図ることが多い。地域経済にとっても致命的に困った事態だ。

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大手四予備校の来春の入試の予想偏差値(サンデー毎日2022年11月1320日)を見ると、東京大学理III(全員が医学部医学科へ進級)と京都大学医学部はずぬけているが、東京医科歯科大学、千葉大学、横浜市立大学、山梨大学、大阪大学などの医学部も、東京大学理I・理IIと同水準だし、54ある国公立医学部のだいたい半分が京都大学理学部・工学部と同水準ないしそれ以上だ。

京都大学は入試が学科ごとに細分化されているので、工学部で最難関の情報工学科は東大理I並みだが、工学部の人気がない学科は最下位クラスの国公立医学部と同水準だし、他の旧帝大の理工系学部は最低ランクの医学部より低い。

週刊誌の受験特集での高校のランキングも、「東大・京大・医学部」となりつつあるが、昔からこうだったわけでない。私の父は終戦直後の京都大学医学部卒だが、昭和30年代までは、理学部の方が医学部より最低点が高かったと話していた。