「不必要な医療が多数存在する」から医療費が高くなる
病床が多い県ほど1人あたりの入院医療費が高い、という事実は、医療側の都合が色濃く反映されていると言っていいでしょう。
世界一の病床を持ち、さらに地域によっても病床数に2倍も3倍も差がある日本において、これは大きな問題です。
病床が多い県でおこなわれている入院医療がすべて命に関わる必須な医療、と考えるならば、病床が少ない県では必要な医療がまったく足りていないことになってしまいます。
この日本のシステムの裏には、「不必要な医療が多数存在する」と考えるほうが自然でしょう。
超高齢社会で医療費が高騰するのは仕方ない、と思う方が多いかもしれませんが、その裏にはこのような実態があるのです。
病床が空くのを喜べないという「医療の根本的な問題」
いずれにしても、限りある貴重な医療資源が、各都道府県でまちまちに、しかもかなりの格差をもって提供されている、という状況が、前述の「病床数」や「MRI」「胃ろう」などの現状からはっきりとわかります。
この現実は、医療費という問題もそうですが、国民が受ける「医療の公平性」という意味でも大きな問題があります。
この事実を知ったとき、私は「このような制度の下で医療をおこなっていても、徒労感しか生まれない」、そんな思いに囚われました。
もちろん現場の医師のほとんどは真面目にこつこつ、必死に目の前の患者さんを治療しています。
ところが医療制度を俯瞰すると、データが示すような事実があるわけです。真面目な医師も知らず知らずのうちにこのシステムに巻き込まれているのです。
本来病床が空いていることは、健康な人が多い証拠でもありますから、喜ぶべきことです。
しかし、病院はどうしても、患者を入院させる方向に進んでしまう。「病床が空いているのは罪だ」といった発想さえ生まれてしまいます。
そこには、医療にとってもっと本質的な問題も隠れています。
病床が多すぎるという問題は、たんに医療費の高騰を招くだけではないのです。