本来であれば転職できた人たちが200万人いるという異常事態

就業者は、古くなった企業から、新しい企業に移動しなければならない。それを円滑に実現できるような社会的な制度が必要だ。ところが、すでに述べたように、雇用調整助成金は、企業から企業への移動を妨げるように作用している。この制度は、大きな経済ショックが生じたときに短期間だけ利用すれば、ショックに伴う摩擦を軽減する働きがあるだろう。

しかし、2年も3年も続くというのでは、弊害のほうがずっと大きくなる。雇用調整助成金が雇用を支え、社会不安が高まるのを抑えている効果があるのは、間違いない。しかし、いつまでも続けることができないものであることも、間違いない。

日本はリーマンショック後に雇用調整助成金で雇用を支えたために、企業が過剰人員を抱える構造が続き、日本経済の構造改革の足を引っ張った。今回も、雇用構造が古い形のままで固定化されるおそれがある。本来であれば新しい分野で働くべき人々が、仕事をしていない。200万人を超える人々がこのような状態にあるというのは、日本経済にとって大きな損失だ。

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その状態がずるずると続いて、ついに3年目になってしまったのである。これらの人々は仕事をしていないのだから、企業から見れば過剰な人々だ。過剰になったのはコロナだけが理由ではあるまい。

そのため、コロナが収束に向かいつつあるいまでも、失業者と同じ数だけの膨大な数の休業者がいるのだ。しかも、それらの人々は就職活動もせず仕事もしないでいる。そして、そのために5兆円もの資金を投入している。これは信じられないようなことだ。

「同じ企業での雇用を維持する」という発想を大転換する必要がある

以上を考えると、労働力の大規模な配置転換が必要なことがわかる。「雇用調整助成金で雇用を支える」、しかも、「これまで働いていた企業での雇用を維持する」という発想を、基本から大転換することが必要だ。

政策の目的を、これまで働いてきた企業での雇用維持から、人手不足産業への移動支援に移す。このような政策転換を急ぐ必要がある。再配置先としてまず考えられるのは、介護部門だ。ここでは、コロナ禍でも有効求人倍率が高い値を維持している。

介護福祉職の2020年11月での有効求人倍率は3.90倍で、全職業計の1.06倍と比べるとかなり高い。特に都市部で人材確保が困難であり、東京都では有効求人倍率が6倍を超えた。21年7月に厚生労働省が公表した介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数によると、25年度には約32万人、40年度には約69万人を追加で確保する必要があるとされている。

第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づいて都道府県が推計した介護職員の必要数を見ると、23年度には約233万人、25年度には約243万人、40年度には約280万人となった。このような状況に対応するために、訓練プログラムと就業斡旋を公的主体が行うことが考えられる。