介護業界に対する雇用転換政策が必要

こうした動きは、すでに現実化している。厚生労働省は2021年4月から、「介護職就職支援金貸付事業」を開始した。資格取得のための職業訓練は、国から委託を受けた民間の教育機関で、無料で受けられる。訓練が終了するまでの間には、雇用保険の失業手当(1日最大8370円)を受けることができる。

雇用保険に入っていない場合には、受講中は月10万円の給付金がもらえる。2~6カ月程度の訓練期間を終えると、介護職などで働くことのできる証明書を受け取る。その後、国から転居など、就職に必要な準備費用として20万円を借りることができる。介護施設などで2年間継続して働けば、返済は免除される。

また、離職した介護人材の再就職準備金貸付事業も行われる。このような施策は評価される。ただし、介護部門への人材誘致は、容易に行えることではない。介護分野は賃金が低く、労働環境も劣悪な場合が多いからだ。賃金を大幅に引き上げるには、介護保険料を引き上げる必要があるだろう。

しかし、これは決して簡単なことではない。また、仮にうまく機能するとしても、量的な問題が残る。前記の介護職就職支援金貸付事業の21年度における制度利用者は2万人強だ。しかし、これでは休業者の総数に対する比率は1%にもならない。高齢化によって介護サービスの需要は増えており、介護人材は毎年6万人程度を新たに確保する必要があるといわれる。こうしたことを考えれば、もっと大規模な雇用転換政策が必要だ。

人材養成プログラムの推進はもっとも重要な課題

人材が必要なのは介護分野だけではない。デジタル人材も不足している。これは現在の日本でもっとも人材が不足している分野の一つだ。

野口悠紀雄『円安と補助金で自壊する日本 2023年、日本の金利上昇は必至!』(ビジネス社)
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デジタル人材といってもさまざまなものがある。必要とされるのは最先端の技術開発者だけではない。例えば、サイバー攻撃に備えるための人材も必要だ。こうした人材は、大企業だけではなく、中小企業にも必要だ。なぜなら、中小企業もサイバー攻撃の標的になっているからだ。

それにもかかわらず防御が弱く、今後、被害が増大する危険が予想される。デジタル人材の中には、1年程度の研修で相当の能力をつけられるものもあるだろう。欧米諸国ではデジタル人材の養成に向けての取り組みが行われ、社会人の再教育プロジェクトが進行している。これらの国は、デジタル技術の再教育支援策の充実によって、コロナ後の成長力を高めようとしている。

しかし、日本はこうした試みが遅れている。これらに限らず、社会人の学び直しを支えることが必要だ。問題解決の能力を高め、新規事業を生み出せるようにするプログラムなどだ。人材養成プログラムの推進は、いまの日本においてもっとも重要な課題だといわざるを得ない。

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