雇用問題の方向性を示せず、休業者が増え続けているだけ

休業者は2020年4~6月に約600万まで増加したが、その後減って、12月末には202万人になった。総務省の労働力調査によると、休業者数は21年度に211万人だった。20年度に比べて51万人減ったが、コロナの影響がまだ小さかった19年度比で見ると、約30万人多い。21年度の完全失業者数(191万人)より20万人も多い。これらのほとんどが、雇用調整助成金によって支えられていると考えられる。

業種別で休業者が多いのは、宿泊業・飲食サービス業(25万人)、卸売業・小売業(24万人)など、コロナ感染の拡大に伴う行動制限の影響を強く受けた業種だ。こうした業種で特例措置をやめれば、休業者が解雇される可能性が高い。そこで、特例措置を延長してきたのだ。

これまでの経緯を見ると、「雇用問題に関する確たる方向づけなしに、手厚い保護で失業の顕在化を防いできただけだった」としか評価できない。そして、その措置を、見通しなしにずるずると延長してきた。企業の立場から見ると、休業者は実質的には過剰人員であったと考えられる。本来は解雇したいのだが、解雇すると訴訟リスクに直面する危険がある。

ところが、雇用調整助成金を受給できれば、人件費の負担がなくなり、解雇したのと実質的に同じ状態を実現できる。従業員の立場から見ても、雇用調整助成金を受給できれば、働かなくとも、働いていたときと同じ給与を得ることができる。こうして、労使の利害が一致して申請数が増えた。

ただしこれは、雇用調整助成金をいつまでも受給できるという前提に立ってのことだ。このため、特例措置をやめられない状態になってしまっているのではないだろうか?

大量の休業者は、失業者よりも問題を抱えた存在

他方で、経済全体を見ると、労働力が必要でありながら確保できない分野がある。いま休業者として仕事をしていない人たちをこうした部門に誘導することを考えるべきではないだろうか?

それにもかかわらず、現状では、そうした労働移動ができない。失業すれば職探しを行う。そして、新しい職を見つけられれば、そこで働く。しかし、休業者は、職探しを行っていない。その意味では、経済全体から見て失業者よりも問題を抱えた存在だ。企業が人材の新陳代謝を先送りし続ければ、経済成長に必要な労働移動が阻まれることになる。こうした状態をいつまでも続けることはできない。

日本には、同じ職場でいつまでも働き続けたいと願っている人が多い。家族のような人々に囲まれて、これまでやってきた仕事を続け、安定した収入を得られるのが一番だという考えだ。雇用調整助成金は、そうした人々の願望をかなえている。日本の高度成長期には、多くの人にとってそうした環境が実現した。しかも、同じ会社に勤め続けていても、会社そのものの規模が拡大を続けたから、経済成長の成果を享受することもできた。

しかし、そうした環境は1990年代以降の世界では、望み得ないものになってしまった。中国が工業化し、さらにアメリカでITという新しい情報技術が登場した。こうした大きな変化が生じた世界では、新しい産業構造を構築し得た国だけが生き残れる。昨日と同じ生活が今日も明日も続くことを求めるのでは、世界経済のなかでの地位は、どんどん低下していく。

産業構造が変わるということは、古くなった企業が退出し、新しく誕生する企業がそれに取って代わるということだ。だから、いつまでも同じ会社で働き続けるのは不可能だ。