大都市と地方都市とで受け入れられるゲームは異なる
中国のゲーム広告市場は、北京・上海・広州・深圳等の1000万人以上の都市群を大都市、500万人以下の都市群を地方都市、それ以外を農村として3つに分類する。都市部の人口は約1億人、地方都市は6億人、残りの約7億が農村であり、人口がそのまま市場規模となる。
なぜこんな分け方をするのか。それは学歴、生活環境、消費行動が地域によって大きく異なるからである。日本にも東京、大阪、福岡などの大都市と地方都市とでは賃金、企業規模のみならず、高校、大学等の教育環境は異なる。その格差が中国では10倍ぐらいあるというイメージだ。さらに、500万都市以外にも、100万人都市、50万人都市などもあるので、そのレイヤーは多重的である。
そうすると、ゲーム消費行動に限らず、選ばれるゲームタイプやゲームシステム、方向性も大都市と地方都市で大きく変わる。
それぞれの市場で最も受け入れやすい形式を追い求めた結果、大都市では「World of Warcraft」や「リネージュ」といったシステムの複雑なゲームが受け入れられ、地方都市では俺最強系のようなシンプルなゲームがウケることがわかったのだ。
つまり、日本人がウェブ上で見ている「俺最強系広告」は、中国の地方都市向け広告の翻訳なのである。
こつこつ育てるより課金して手軽に「俺最強」になりたい
また、地方都市のユーザーは一般的には、大量課金する社長タイプか、まったく課金しない一般人の2種類に大別されると言われている。プレーの目的が「達成感」であることは日本人プレーヤーと同じではあるが、中国人プレーヤーは最強装備を買い集め、すぐにサーバー最強になることが主な目的である。日本のように要素やキャラクターカードをこつこつと集め、物語を楽しみ、完全にクリアする微課金ユーザーは少ない。
社長タイプは一般人を課金アイテムで釣り、一般人は社長タイプからもらうアイテムを使って最強ギルド(ゲーム内でのチーム)を作り、ギルド間の戦闘に勝ち、最終的にサーバー最強となり、めでたく解散、次のゲームへと移行する。これは、なるべく課金に頼らず時間をじっくりかけてキャラクターを成長させるという日本のゲームユーザーとは明らかに異なるものだ。
この結果、2018年ごろまでは、中国ゲーム市場はゲーム寿命が3~6カ月と非常に短いものが多かった。そのため、ゲーム会社側も長くて半年しか持たないゲームに多額の広告費を投入して、一気に知名度を上げ再利用できるタイプのものが量産された。
課金ガチャで手軽に「俺最強」を名乗り、その結果ゲームの「消費期限」が極端に短い――。そんな中国特有のゲーム事情が、冒頭に紹介したような俺最強系広告を生み出したのだ。