渡辺前社長は既に船橋屋を退社。現在は会社の経営に関与しておらず、権限もないという。
神山さんは、自分に対して「お飾りの社長なのではないか」という見方があるのも承知しているというが、「(渡辺前社長に対しては)執行役員の時から自分の意見をはっきり述べて、是々非々で議論してきました。もちろんいろいろなご意見があるかと思いますが、それは私が今後の努力で変えていくしかない」と言い切る。
“オタク気質”発揮して伝統を科学したい
「今は、信頼回復が第一。とにかくそこが最優先です。これまで船橋屋を支えてきてくださったお客さまの期待に応えることをまず考えたい」
そしてその先にあるのは、「伝統文化と科学技術の融合」だ。
神山さんはもともと、いずれはくず餅の研究に専念し、「伝統を科学する」という試みを本格的に進めるつもりだったという。
船橋屋のくず餅は、グルテンを取り除いておよそ450日間乳酸発酵させた小麦でんぷんを蒸しあげて作る無添加自然発酵食品だ。江戸時代から同じ製法を守るが、その発酵プロセスは、まだ科学的に解明されていない部分も大きい。
「船橋屋だけでなく、日本の発酵文化というのはすごいんです。こうした日本の伝統を次世代に伝えるためにも、今、発酵を科学で可視化していく必要があると思うんです。私のこの“オタク気質”を発揮するなら今かな、と」
そして今後は、くず餅のすばらしさや、日本の発酵文化を伝えていくためにも、さらに人材育成や教育に力を入れていきたいという。今年6月には人財開発室と広報室を設置したが、教育や人材育成強化を目的とした組織改革を進めていくという。
「私は販売目標を立てて『売り上げを上げよう!』というよりも、船橋屋が大好きで、くず餅が大好きで、『自分が大好きなものを、もっと多くの人に食べてみてほしい』というだけなんです。売り上げのことは、現場に任せられる社員もいますので、大好きなくず餅をもっとたくさんの人に楽しんでいただくための付加価値をつけられるように考えていきたいんです。そうすれば、現場では自然とお客さまに新しい提案が生まれていくように思います」