正義は脳にとって快感

近年の脳科学では、「(自分より下位の者と比べる)下方比較」では報酬を感じる脳の部位が、「(上位の者と比べる)上方比較」では損失を感じる脳の部位が活性化することがわかった。脳にとっては、「劣った者」は報酬で、「優れた者」は損失なのだ。

さらに、これもさまざまな脳科学の研究で、ルール違反をした者を処罰するときに脳の報酬系が活性化することが確認されている。こうした実験では、相手と対峙たいじするのではなく、匿名のまま相手が受け取れるはずの金銭を減らし、罰を下せるようにしている。

すべての生き物は、快感を求め苦痛を避けるように「プログラム」されている。すると、このきわめてシンプルな脳の仕組みだけで、「抜け駆け」と「フリーライダー」問題を解決できる。「正義」を脳にとっての快感にしておけば、ひとびとは嬉々として集団の和を乱す者を罰するようになるだろう。

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ネット炎上を起こす脳のスイッチ

ネットニュースでいちばんアクセスを集めるのは「芸能人と正義の話題」だという。メディアが「こんなことが許されるでしょうか」といつも騒いでいるのも、SNSで不道徳な者がさらし者にされるのも、現代社会にとって正義が最大の「娯楽(エンタテインメント)」だからだ。

噂話の目的は、自分より上位の者を引きずり下ろすと同時に、下位の者を蔑んで自分をより目立たせることだ。「私はそんな卑しいことはしない」という良識あるひともいるだろうが、それはたんなる演技かもしれない。

脳にとって上方比較は損失なのだから、その不快感から逃れるには、自分より優れた者を蹴落とせばいい。これはけっして褒められた話ではないが、そこに「正義」を紛れ込ませると自分の行為を正当化できる。

罵詈ばり雑言を浴びるのはルールを破った自業自得で、自分は社会のために「正義の鉄槌」を下しているのだ。これがネット「炎上」の構図だというのは、最近のいくつかの事例を見ても明らかだろう。