「テレビは人々をいくらでも誘導できる」は間違い

この文章を読んでマスメディアは強大な影響力を持つという考えが70年も前に既に否定されていたのかと驚かれる方がいる一方で、もしかしたら「1950年代には、テレビはまだ普及していない」「影響力が弱いのは新聞やラジオの話ではないか」という反論を思いつく方もいるかもしれない。

ウェブ上での選択的接触を通じた人々の意見の分断や、インフルエンサーを通じた2段階の情報接触などに表れているように、限定効果論が提示した論点は現代においても通用する、あるいは現代の状況にこそ当てはまる側面もあるが、元は新聞やラジオの時代の議論だというのはその通りである。

テレビの普及とともに登場したマスメディアが持つ強力な効果を示した1960年代後半以降の研究群は、新しい強力効果論と呼ばれる。ただし、新しい強力効果論の登場とともに限定効果論が否定され、テレビが人々をいくらでも誘導できることが示されたわけではない。これらの研究が示したのは意見の変容とは異なる形の影響力である。

マスメディアは「情報のゲートキーパー」である

世界では毎日さまざまな出来事が起こっているが、私たちはそのほとんどについてメディアを通じて間接的にしか知ることができない。たとえば、読者のみなさんの中に、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことをマスメディアやインターネットを介さず、直接見たことがある人はほとんどいないだろう。

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また、新型コロナウイルスの感染拡大についても、初めて緊急事態宣言が出された2020年4月の段階では、多くの人にとってはメディアを通じて間接的にしか経験できない出来事であった。このように私たちの現実に対する認識は、メディアを通じた間接的な経験によって大部分が構成されているのである。

問題はマスメディアが世界のすべてを伝えることは不可能だということである。テレビニュースの枠や新聞紙面の大きさは決まっているため、「何を伝えて何を伝えないか」という情報の取捨選択が必要になる。結果として、マスメディアは人々が受け取る情報とそうでない情報を決めることになるため、情報のゲートキーパー(門番)と呼ばれる。

新しい強力効果論は、ゲートキーパーとしてのマスメディアが人々に与える影響を取り上げたものである。たとえば、選挙の際に各政党はさまざまな政策争点を掲げるが、その中からマスメディアは重点的に取り上げる争点を選ぶ。そして、マスメディアが多く報道した争点は、人々に重要な争点だと認識されやすい。これはマスメディアの議題設定効果と呼ばれる。